第7話

 あれから1ヶ月程、この総合治療院で仕事をして旅費を稼いでいた。


「もう、行ってしまわれるのですか?」


「まあ、そうですね。

 本当は正体バレた時点で移動する事に決めてはいたんですが、貴方の心意気に心動かされ治療法や薬の調合レシピを此処には残しておきたかったのです。

 なので今回は特別です。

 是非これからも多くの人達の為に貴方の治療師としての腕を奮って下さいね」


「ありがとうございます。アーシャ様」


「では、アリス。行きましょうか」


「はい。アーシャ」


 治療院の人々に惜しまれつつ、私達は総合治療院を後にした。



「アーシャは何故いつもこの様な旅を?」


 少し気になったので訪ねてみた。


「そうですね。昔、私も酷い大怪我を癒されて救われた事があるんですよ」


「え?そうだったんですか?」


「ええ。その時の事は朧気にしか覚えていないのですが、父と母もその時の事故で亡くなり私だけが助けられたのです。いえ、正確には救えなかったでしょうか」


「はあ。でも星巫女様は長い年月、調停者をされていたと歴史の学科で学びましたが、今代の星巫女のお仕事はされなくてもよろしいのですか?」


「うーん。でもそれやってたの私であって私では無いと言いますか」


「どういう事でしょう?代々受け継がれる役目なのでは?」


「うーん。内緒ですよ、アリス。私の他に星巫女は存在しません」


「え?はい。勿論継がれるものならば当然かと」


「いえ、そうではなくて私が500年間、星巫女をしていたのですよ。正確には私の身体がですが」


「??意味が分かりません」


「ですから、私は推定年齢500歳なんです」


「はあ?え?えっと、星巫女様は不老不死の加護とかがあるのですか?」


 私と同い年だと思ってたのにアーシャはおばあちゃんだったの!?


「五月蝿ですよ!」


「ふえっ!?す、すみません」


「ああ、ごめんなさい。アリスに言った訳では無いのよ」


「は、はあ」


「まあ、実際目覚めたのはここ数年の事なので私の記憶の中では貴女と同じか少し上な感じかしら。でももう成長はしないんじゃないかな」


「え?やはり不老不死なのですか?」


「不老不死とはちょっと違うけれど、いつかは私も壊れるでしょうし」


「は、はあ」


 壊れる?

 どういう事だろう。


「まあ、その時はその時ね。アリスの事はちゃんと看取ってあげるわね」


「何で既に私が死ぬでお話が進んでおりますの?」


「にゃはは」


 きっとこれからもアーシャは長い時の中、お独りで道を進んで行かれるのだろう。

 その時までは私もアーシャと共に。


「それでも、いつまでも共におります。アーシャ」


「え?そうなの?」


「ゑ?」


「うわ、凄い不安」


「アーシャ〜酷いですぅ」


「うわっ!なんで泣いてるのアリス!」




※注

この話は【吾輩は戦闘艦である】の第9話にも収録されています。

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