第493話 ぬらりひょんの一族

レグルス兄様と一緒に、昔作った他種族用の牢に行くと、中には一人の女の子が居た。


町娘風の衣装を着ており、目立つほどではないが整った容姿をした一見普通の女の子に見えるその子だが、見ているとまるで雲でも掴むような掴みどころのない妙な感覚を抱いてしまう。


その時点で俺はある程度どんな種族かというのを把握した。


「あら?どんな拷問官が来るのかと待ちわびてたら、可愛らしい少年がやってきたわね」


牢に入りながらも飄々とした様子を見せるその子は俺を見てちょっと驚きながらも面白そうに笑みを浮かべる。


「シリウス。分かるかい?」

「ええ。恐らくぬらりひょんの一族でしょうね」

「ぬらりひょん?」


俺の答えに首を傾げるレグルス兄様と、面白そうな笑みを僅かに崩したその女の子。


「少し特殊な種族なんです。見た目は普通の人間と変わらないのですが、特有の能力……というか、種族の特性として、己の存在を曖昧にするというか、まるで空に浮かぶ雲でも掴むような妙な感覚を相手に抱かせるんですよ」


説明と言えるのかあまり自信の無い説明になってしまったけど、ぬらりひょんの一族は己の存在を他者に曖昧にするという力を持つ。


だからこそ、他者視点からの説明が少し難しくなるのだが、聡明なレグルス兄様は俺の説明でも大体のことを把握してくれたようだ。


流石は兄様。


「そうなると、その力で宝物庫まで入り込んだって訳か」

「ええ。とはいえ、この子は純粋なぬらりひょんの一族というよりはハーフでしょうね」

「そうなのかい?」


正確にはハーフよりクォーター辺りだろうか?


いや、この感じはもう少し薄め……ひ孫とかその辺が近いかな?


それにしてはぬらりひょんとしての力が濃いようだが、余程色濃く受け継がれたのだろう。


そんな風にレグルス兄様に説明をしていると、さっきまで笑っていたその子は驚きからこちらを見定めるように視線を向けてきていた。


「……ふーん。ただの子供って訳じゃないみたいね。だとしたらここに入り込んだのは失敗だったみたい」


ゆらりと己の存在を薄めて牢からの脱出を図ろうとするその子だが、直後牢に施した術式でバチりと元に戻されて驚愕の表情を浮かべた。


「全力でもダメなんて……」

「残念なことにその牢は特別性だからね」


あらゆる術式を込めているので、俺の知ってる種族であるならどれだけ力を持ってようと抜け出すことは出来ないようになっている。


まあ、本当は牢屋にそんな相手が入らないことを願って作ってはおいたのだが、ままならないものだ。


とはいえ、様子を見るに話せない相手ではないように感じる。


まずは話をしっかりと聞くのが先かもしれないな。

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