第490話 くノ一はブレない

半蔵と話してから、外してもらっていた茜と才蔵を部屋に入れると俺を交えて半蔵は奥さんの話をした。


と言っても、本当に好きだったのだろうという事が分かるような惚気にも似た内容をポツリポツリと話すので、才蔵が大層驚いていたけど、母の話を聞けるのは嬉しかったのか楽しそうに聞いていた。


茜の方は新しく聞く母親の話を聞きながら、何度かげじげじと父親を蹴ってさも、『何でそういう事をもっと早く話さないいんだか』と言いたげな様子だったが、それで満足したようなので良かった。


「シルくん。ありがとうね」


挨拶が終わって二人で家を出ると、そんな事言う茜。


「色々と面白い話が聞けたのって、シルくんが親父に言ってくれたんでしょ?」

「少しね。とはいえ、話したのは半蔵の意思だよ」

「ふーん。そっか」


そう言いながら上機嫌な様子の茜。


「ねぇ、シルくん。ちょっとだけこの後も時間貰っていい?」

「何処か行きたいところでもあるの?」

「うん。私の叔母さんのお墓に。シルくんと一緒に色々報告したいんだ」


話を聞く限り、その人は茜にとっては師匠であり、育ての親のような人であったらしいので、断る理由もない。


そう思って茜の影移動で一緒に茜の故郷のその人のお墓へと移動する。


「叔母さん。この人がシルくんだよ。私ね、シルくんにたくさん救って貰ったんだ」


お墓の前に立つと、そんな事を言う茜。


「叔母さんが生きてたら、私達の子を見せてあげたかったよ。それとね、ようやく親父がお母さんの話してくれたんだ。ホントにようやくだけど、それもシルくんのお陰って訳」


そっとお墓に触れてから、茜は俺の方に戻ってくると、更に続けるように言った。


「今度はシルくんと結婚して、子供が出来たら報告に来るから。だから――向こうで安心してね」


それだけでスッキリしたようにホッと一息つく茜。


きっと、こんなもんでは足りないくらい言いたい事があるのだろうけど、茜が満足してるなら俺から言うことは一つだけだ。


「茜は俺が幸せにします。だからどうか見守ってて下さい」


その言葉に嬉しそうに抱きついくる茜。


なんていうか、湿っぽい話もあったけど茜らしく気持ちの整理はついたようで良かった。


心做しか父親よりもしっかりと叔母のお墓に報告してた気もするけど……気の所為ということにしておこう。


その後、軽く近くを見ていくという候補もあったけど俺と茜は報告だけして屋敷に戻ることに。


今の居場所は向こうと茜も思ってくれてたのか、「帰ろうか、シルくん」と言ったのが茜らしかった。


無理をしてる訳でなくそうナチュラルに言ってくれるのだから悪い気はしない。


俺も頑張らないとね。

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