第485話 じいやの気持ち

「お嬢様が結婚ですか……感慨深いです」


その日は、虎太郎とテオの二人とラナの店で飲む約束があったのだが、当然婚約のことを知っているテオが非常に穏やかな顔をしてそう呟く。


「シリウス様。きっと沢山ご迷惑をかけると思いますが、お嬢様のことをどうぞよろしくお願いします」

「当たり前だよ。大切な人だからね」


そう言うと安心したように一気にグラスの酒を飲み干すテオ。


「しっかし、茜のやつ大丈夫か?あの調子だと結婚まで待てないってこともあるんじゃないか?」

「それは大丈夫でしょ。ちょっと悪戯は増えそうだけど」


着替え覗くくらいなら大目に見るよ。


流石に全裸は無しだけど。


俺の裸にそんな価値はないと思うが、あの様子だともしかしたらやりそうな気もするので一応注意はしておこう。


「ありそうだな。その点でいえば、クーデリンの嬢ちゃんやフロストの嬢ちゃん辺りは安心か」


あの二人は積極的な方ではあるけど、俺がノーと定めてることはきちんと守るし、そもそもノーと言う前に気づくからね。


安心といえば安心かもしれない。


「もう龍王様にはご挨拶を?」

「一応、フロストは報告したようだね。きちんと挨拶するのは後日になるけど」


家族への挨拶というのはかなり大切だし、なぁなぁで済ませる気もないので、向こうのスケジュールの加味してきちんとそれぞれ一日取ると決めてるしね。


フロストだけでなく、クーデリンも茜もそうする予定だ。


まあ、茜はこっちに父親と弟が居るのだが、こういうのはきちんとしないとだし、やり過ぎってこともないだろう。


「ラナの嬢ちゃん。モテる旦那持つと大変そうだな」

「その分、それ以上に愛を貰ってますから」


頬を赤らめてそう言い切るラナ。


「まあ、坊主のマメさは凄まじいみたいだし、魔法もあるからどうとでもなるのか」

「離れていてもいつでもお声を聞けますから」

「便利だよなぁ。俺も家族と離れてる時のそういう連絡手段は増やしたいもんだ」


ラナ……というか、婚約者達とは加護紋によって繋がってるので、通信の魔道具などがなくてもいつでも連絡が取れるようになった。


加護による繋がりというのは本当に距離がグッと近づくので、心から親しい相手だと本当に便利なものだ。


「何にしても、今夜は奢らせてください。虎太郎殿もラナ殿も遠慮なく好きなものをどうぞ」

「おっ。なら好きに飲ませて貰うか」

「ありがとうございます」

「うん、ありがとうテオ」


お祝いという感じで、テオの奢りで虎太郎は好きに飲み、ラナも高いものをチョイスして出し、俺は俺で普段の姿でジュースと料理を楽しむ。


大人モードでお酒もいいけど、祝われるのは今の俺とフロストの婚約なのでこの姿で受けるのが適切というのもあるし、お酒の気分ではなかったのもある。


ラナの店はお酒以外も美味しいしね。


それに、テオの奢りでどうせ飲むなら今度はフロストも連れてきて一緒に飲むのもいいかもしれないと思ったのもあるのかも。


普段のテオよりちょっとテンションが高いように感じたのは、それだけ認めてもらえてるということかな?


何にしても、じいやの家庭に負けないくらいの気持ちで幸せにしてみせますと密かに誓うのでありました。

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