第322話 強襲×2

「――――――!!」


パリンと思わず手に持っていたカップを落としてしまう。


それは、とある日の昼頃の事だった。


食後のお茶を楽しんで、さて配給の方に行こうというタイミング。


万が一に備えて、スレインド王国の王都と、シスタシアの王都に掛けていた結界が破られたのを確認した。


それと同時に、明らかにヤバいのが王都に現れたのも分かった。


感知のために使い魔を残してきたからこそ、すぐに気づけたけど、どう考えても自然現象ではない。


人智を超えた……神による干渉。


大きな反応はそれぞれの王都に一つづつ。


「虎太郎!シエル!」

「緊急事態か?」

「シリウス殿、何かあったのでしょうか?」


俺の異変に気づいて気を引き締めてくれる二人を見て、俺は少し迷ってから頼む。


「スレインド王国とシスタシア王国の王都にヤバいのが来てる。片方の足止めを任せたい。気を引く程度で構わないから」

「分かった」

「承知しました」


本当は俺が分身してそれぞれ対処出来ればいいんだけど……現れた存在がどう考えても異常だった。


魔獣なのは間違いないけど、神から権能を得てる……いや、これは神域に近づいてるのか?


何れにしても、万全の体勢でそれぞれ討った方がよさそうな相手だった。


「アリシア、絶対に孤児院から出ないように。子供達のことを頼んだよ」

「……分かりました。シリウス様、どうかご武運を」

「必ず戻るよ」


虎太郎とシエルの支度の間に、今度は屋敷の方に緊急用の念話を送る。


『フィリア、セシル、シャルティア、フローラ、ソルテ、スフィア、セリア皆聞こえる?』

『はい、聞こえています』


全員からの返事を代弁するフィリア。


よし、事前に話していたからこの連絡法も大丈夫そうだな。


『手短に言うけど、今スレインドとシスタシアの両国の王都にヤバいのがきてる。俺は今からそれを片付けるけど、万が一に備えて領地の方のことを頼みたい』

『――分かりました。こちらはお任せください』

『シリウス、手助けは必要そう?』


フィリアの答えと共に、スフィアからそう聞かれる。


『スフィアかシャルティアどっちか来れそう?出来ればどっちかには領地の最終防衛ラインを任せたい』

『……なら、私の方が良さそうね。シャルティアはこっちを守ってて』

『そうですね……分かりました。こちらはお任せを。誰一人としてこの地とフィリア様には手出しさせませんので』

『うん、頼りにしてるよ』

『お任せを』


シャルティアの守りなら期待できる。


今世で初めて知った、信じて任せるということ。


不安もあるけど、それ以上に大切な人達だからこそそれ以上の信頼もある。


虎太郎やシエル、スフィアの三人にヤバいの足止めを任せるのも信じてるからこそ、俺が行くまで必ず食い止めてくれると思える。


とはいえ、万が一に備えてあれこれと過保護はしておくけど。


『私はこのままでいいの?』

『うん、転移で直接現地に送る。虎太郎とシエルと一緒に足止めを任せたい。軽く注意を引く程度でいいから』

『了解』

『シリウス様』


フィリアの声。


『お帰りをお待ちしております 』

『――うん、そっちは頼んだよ』

『はい』


多くは語らない。


それだけで、フィリアの気持ちはよく分かるから。


だから、必ず帰るから信じて待ってて欲しい。


俺も皆を信じて、必ず帰るから。


そう心を確かめあってから、準備の終わった三人をスレインド王国の方に送ってから、俺も同時にシスタシアの王都へと転移したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る