第290話 妖精さんへのお土産

フィリアに癒されてから、ヌロスレアに戻る前に、俺はここまで姿を見せてないミルの様子を見ようと、屋敷の屋根に上がっていた。


マイペースなミルの行動パターンは豊富なのだが、ここ数日はどうやら屋敷の屋根の上でぼんやりしていたようだ。


人間以外の長生きな、所謂長寿な種族、あるいは人知を超えた存在というのは、かなり個性的で、時間の概念も俺たちとは根本から違うらしい。


前に聞いた話では、少し考え事をして気がつけば数十年経ってた……なんて話もあるあるらしい。


おおらかと言うべきか、マイペースと言うべきか。


楽しにしていたはずの、おやつにも顔を出してないとのことなので、軽く手土産を持参してミルの隣に座ると、ようやくとぼんやりとしていたミルが俺の接近に気づいて顔を向けてきた。


「あ、人間さん〜。もうおやつの時間ですか〜?」

「まあね。ミルは何か考え事?」


おやつの時間はとうに過ぎてるし、何ならここ数日を何かしら考え事で費やしているのだが、それは言わずにそう尋ねるとミルは実にのほほんといった様子で答えた。


「私〜、思ったんです〜」

「何を?」

「お餅を〜、お布団にして寝たら〜、きっと気持ちいいんじゃないかって〜」


……うん、相変わらず平和な思考で何より。


「それだと起きた時に餅はカチカチになってそうだね」

「それは困りますね〜」

「それに食べてあげた方が餅にとっては本懐だと思うよ」

「おお〜、それはそうかもですね〜。流石人間さんです〜」


果たして本当にそんな事で数日間考え事をしていたのか定かではないけど、ミルは基本的に嘘をつくような子でもないし、素で考え込んでた説が濃厚かな。


「そんなミルにお土産。向こうで見つけた果物で作ったゼリーだよ」

「向こう?」

「少し出掛けててね。少し変わった果物も見つけたから、後で食べるといいよ」

「わ〜い。ありがとうございます、人間さん〜」


美味しそうにクラウベリーのゼリーを食べるミルを眺めつつ、これから暫く多少忙しくなるかもしれないという旨を伝えたのだけど、果たしてどれくらい聞いていたから定かではなかった。


まあ、あれだね。


こうして美味しそうに食べてくれるのだから、お土産を持って帰ってきた甲斐はあったかもしれない。


クラウベリーは婚約者達にも受けが良さそうだったし、ミルもかなり気に入ってくれてるようなので良かった。


ヌロスレアが落ち着けば、クラウベリーももう少し手に入りやすくなるし、他にも色々欲しいものがあるから是非とも頑張らねば。


そんな風にマイペースな妖精とのんびり過ごすのも楽しいものだよねぇ。


贅沢な時間というのかな?


何にしてもリフレッシュにはなりました。

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