第273話 ヌロスレア国王

「遠路はるばるよく来られた。私がヌロスレア王国の国王である、イーデバリス・ヌロスレアである」


豪華な王城に豪華な謁見の間。


城の中を行き交う人達皆が身なりが良く、よく言えば恰幅の良い、悪くいえば自己管理が疎かな人達が多くいる王城。


外との対比がえげつないことこの上ないが、そんな王城の主たるヌロスレア国王と俺は謁見していた。


いや……正確にはヌロスレア国王の影武者らしき人物との謁見と言うべきか。


俺自身にヌロスレア国王との面識はない。


ヌロスレア国王の顔はここに来る前に一応事前に調べたのだが、それをしなくても目の前の人物がヌロスレア国王でないのは分かってしまった。


その理由は明白。


(変身の魔法かぁ……しかもこのクオリティ、凄いな)


手練の魔法使いでさえ見抜けるか分からないクオリティの変身魔法。


ヌロスレア国王にその手の才があるとは聞いたことがないし、その一挙手一投足に僅かにある違和感がそれを物語っていた。


(思ってた以上に面倒な裏があるのかもなぁ……まあ、仕方ないか)


関わると決めた以上、文句は言うまい。


アリシアや施設の子供たちのためにも出来ることをするまで。


「お初にお目にかかります。シリウス・スレインドと申します」


実に慣れ親しんだ外向けの愛想笑いで挨拶をしながらも状況の把握と整理に務める。


ヌロスレア国王が俺を試すためにわざと影武者を使ってる線……いや、それはないか。


何らかの理由でヌロスレア国王が動けないか、はたまたヌロスレア国王が既に居ない可能性も考慮しとくべきかもなぁ。


「貴殿の噂はよく耳にしている。我が国をゆっくりと楽しまれるといい」

「ありがとうございます。こちらは心ばかりの品でございますが。それと、来る途中でここ最近ヌロスレアが食糧難にあってると伺いました。是非とも私にも僅かばりではありますが手助けをさせて頂けると有難いのですが」

「手助けとな?」

「はい。如何でしょう?」

「……ふむ、まあ好きにするといい」


なるべく世間知らずな王子様を装いつつ、上手いこと許可を貰うことに成功したので下準備としては上々かな。


何を考えてるのか軽く探ろうと心を読む魔法を使うか迷ったけど、これだけの変身魔法の使い手を相手にすると下手に尻尾を掴まれるのは得策ではないし別の形で探ることにしよう。


ヌロスレアで起きてるあれこれの裏にいるかもしれない存在もアホではないだろうし、こちらの事を色々掴んでる可能性もあるけど、とにかくこの場での俺は民を憂いている世間知らずの王子様であるべきなので、そのようにキャラを作って上手いこと場を繋ぐ。


そうして軽く話してからヌロスレア国王との謁見は終了したが、とりあえずヌロスレア国王が偽物である事が知れたし、本来の目的であるヌロスレア国民への支援に関しては許可を貰えたし悪くない成果かな。


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