第267話 スラムのボス

「遠路はるばるよくお越しくださいました。あっしがここいらのスラムを仕切ってるダビンです」


他の家よりも少しだけ大きくて何処と無く威圧感のあるそこに目的の人物は居た。


口調は割かし気安いけど、顔中に傷跡があり、スキンヘッドである頭だけは傷一つない異様な様相。


身体も大きく、虎太朗よりも背丈が少しだけ低く、その代わりに横に広く、ガッチリとしてる体格の良い強面な中年の男性。


彼こそが、このスラム街を纏めているボスのダビンらしい。


「シリウス・スレインドです」

「色々噂は聞いてましたが、まさかこんな時期に本当にこの国に来てるとは。それで、ご要件は?」


丁寧な口調ながらも、どこか見定めるような視線を向けてくるダビンに俺は特に気負わず答えた。


「まあ、簡単に言えば君たちに仕事を紹介したいんだよね」

「仕事……ですか?」

「うん、その上でこれから起きるであろうクーデターの後も安心して暮らして欲しいなぁ……なんてさ」

「……他国の王子様がこの国に干渉するので?」


スっと視線を鋭くするダビン。


殆どの人がそれだけで身が竦むのだろうが、生憎とその辺の感性がぶっ壊れてる俺は特に気にすることも無く首を振る。


「率先してやる訳じゃないよ。あくまで手伝うだけ」

「手伝う?」

「うん、この国に生きる人達が穏やかに暮らせるように風通しを良くするだけだよ」

「……王子様はこの国侵略が目的ではないと?」

「侵略して俺にメリットがあると思う?」

「……まあ、このボロボロの国では無さそうですね」


ふむ、やはりこの人はこの国の現状を理解してるみたいだ。


その上で上手いことスラム街を纏めているのだし、上手いこと取り込めると楽だけど……


「この国を救う理由を伺っても?」


暫くして、そんなことを尋ねてくるダビン。


その言葉に俺は少し考えてから端的にかつ、シンプルな答えを返した。


「助けたい人達が出来たからね、その人達のために少しお節介をしたいだけだよ」


アリシアや孤児院の子供たち。


彼女たちを見捨てる選択肢はないし、元々この国のことはヘルメス義兄様や父様も気にしているようだし、関わらない選択肢はない。


ただの軽い偵察だったが、接してそう思ってしまった時点でこれはもう何とかしない訳にはいかないだろうし、そういう意味では前世から何の成長も無いのかもしれない。


いや、成長はしてるかな?


義務感で仕事していた時とは違って、心からお節介をしたいと思ったのだから、成長と呼べるのかもしれない。


まあ、何にしても俺にはそれ以上の答えはないし、実にシンプルな理由ではあったが、その言葉は予想よりもダビンの心象が良かったのか少し笑みが浮かんだ。





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