第176話ドワーフの国

「ドワーフの国……ですか」


先程までの閉塞としていた空間とは違い、まるで地下の大空洞にでもあるかのような、大きな都市が一望できる場所。


目を凝らしてみれば、確かに街ゆく人達は皆ドワーフのようだ。


小柄ながもがっしりとしてそうな、褐色気味の種族……それこそがドワーフであった。


英雄時代の前世では、何どか目にしたが、この世界では初めて目にするそれと、この異様な空間に驚いていると、レグルス兄様が説明をしてくれた。


「ここは、地下にあるドワーフの国なんだけど……正確にはこの国の地下ではないんだ」

「別の場所ということですか?」


ふと、見れば確かにこちらとドアの向こうの空間に歪みを感じる。


転移の応用……いや、空間魔法を用いた魔道具かな?


「うん、地下遺跡の出土品と、ドワーフの技術でこの国の地下に繋がったらしいよ。長らく交流は無かったんだけど……父上の代で再び繋がるようになってね」

「えっと……これは俺が知ってもいいものなんですか?」


もう少し、小規模なものを想像していただけに、いきなり出てきたドワーフの国という存在に驚いてしまう。


というか、国家機密レベルだよね?


本当に俺が知ってしまって……なんなら、その鍵を貰ってしまって良いのだろうか?


「シリウスなら良いと思うよ。口外禁止に出来るだろうし、広める意味もないでしょ?」


まあ、そうだけど……そこまで信頼されているのは悪くないかな。


「でも、確かにラウル兄様が好きそうな場所ですね」

「でしょ?ここまでの道のりでも満足出来るのに、ドワーフとも会えるんだから、ラウル兄さんはさぞ満足だろうね」


ドワーフの職人の武器は、人間の職人の比ではない程に優れたものだ。


こと鍛治に関してなら、どんな種族よりもその能力に恵まれているドワーフだが、それらを分かっているからか、あまり他種族と交わろうとはしない。


とはいえ、共栄共存してる場合もあるし、その辺はそれぞれ世界や地域によって異なるのだろうが、この世界ではその存在の痕跡すら無かったので、秘匿されていたのかもしれない。


「さて、じゃあドワーフの長に会いに行こうか」

「レグルス兄様はよくお会いになるのですか?」

「そこそこの頻度ではね。交渉事はラウル兄さんには向かないし、僕の仕事だからね」


なるほど、いかにもらしい理由ではあった。


ちなみに、ラウル兄様はここに来るとお気に入りの鍛冶師に会って武器の相談をしてるらしい。


住民たちとも馴染んでおり、実に関係は良好らしいが……レグルス兄様もラウル兄様程ではなくとも受け入れられているそうだ。


父様もだし、本当にコミュ力の高い父と兄達である。


ラウル兄様の場合はコミュ力というよりはカリスマの方が似合いそうではあるが、それはそれ。


俺も見習いたいものだが、まだまだ積極的に行くには程遠いので、見習いつつ日々努力だな。


そんな事を思いながら、レグルス兄様の後に着いて行く。


にしても、見知らぬ土地には慣れてるつもりだったけど、頼りになる兄が居るだけでこうも安心感が違うのかと、びっくりしてしまう。


こういう頼れる男になりたいものだよ。







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