第161話 奉公
「おお、シエル!無事で良かった!」
「……父上、暑苦しいです」
試し斬りを終えて、そのままダークエルフの里までシエルを送っていくと、シエルの父親であるエデルが何とも嬉しそうに娘を出迎えて抱きつこうとしたのだが、それを面倒くさそうに交わすシエル。
年頃の娘と父親というのは中々に面白いものではあるが、俺も娘が出来ればこうなるのだろうか?
「シリウス殿、孫娘を連れてきてくれたこと感謝する」
そして、祖父である族長の方は割と落ち着いた様子でそんな風にお礼を言うのであった。
「いえ、たまたま会ったので連れてきただけですから」
「その豪運が凄まじいのだがな……ところで、孫娘の背にあるあの武器はシリウス殿のものか?」
おっと、早速そこに気づくのか。
相変わらず鋭いが、娘との再開でテンションの上がっていたエデルは気づかなかったので、これが年季の差なのだろうと思うことにする。
「どうやら、また貴殿への恩が増えたようだな。礼を言わせて貰いたい」
「いえ、ただのお節介なのでお気になさらず」
「ふむ、何か今すぐ返せるものがあれば良いが……」
「お祖父様」
気にしなくてもいいと言っては見るが、聞き入れて貰える様子もなく考え込む族長に、シエルが何かを言おうと声をかける。
「どうしたシエルよ」
「シリウス殿の元に行くことをお許し頂きたい」
その言葉にエデルが目を見開いて驚く。
何かを葛藤するように頭を抱えたかと思えば、数瞬後には吹っ切れたような表情を俺に向けると言った。
「……シリウス殿。娘を是非とも宜しく頼む。それと、2人目の孫の名前は私に決めさせて欲しい。ただそれだけを願う」
……どう解釈しても嫁ぐみたいな勘違いをしてるようにしか思えないが、もう少し冷静になっても良いような気はする。
「ふむ、シリウス殿。孫娘をそちらに奉公に出しても構わぬか?」
族長は勘違いせずにそう提案してるし、親バカなエデルは判断力が著しく落ちてるようではあるが、最愛の娘ならその反応も仕方ないか。
「こちらは構いませんが……シエル、いいの?」
「ええ、私は戦うことしか出来ませんが、少しでもそちらで恩を返せればと思いまして」
ふむ……まあ、俺としては悪くない提案なので飲みたいところ。
別に恩返しなんてしなくてもいいのだが、シエルのような強い人が居れば俺の留守中も皿に安心だし、向うがその気なら是非とも引き受けるべきだろう。
「分かりました、お引き受けします。じゃあ、よろしくねシエル」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
そうして、里まで送ったのに何故かシエルがウチに奉公に来ることになってしまうのだが、悪い話ではないし問題ないよね。
「なんなら、娶ってくれても構わないが……それは何れだな」
ポツリとそんな事を呟く族長。
……いや、流石にそんな展開にはならないとは思うが、シエルは可愛いので俺を選ぶ必要性もないだろうし、気にしないでおこう。
婚約者が増えすぎても大変だしね。
この時の俺はそう楽観的になっていたのだが、後に本当にそれが楽観だというのことに気付かされる日が来るのだが……それはおいおい分かることなので、今は割愛しよう。
本当に人生とは分からないものだなぁとガチで思うであった。
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