第146話 丼物の可能性
お米や味噌、醤油などが来てから数日後。
少し遅れて俺は虎太郎の元を訪れていた。
「うぉー!これめちゃくちゃうめぇじゃねぇか!」
「お口にあって何よりだよ」
ガツガツと、口の中に掻き込むように牛丼を食べる虎太郎。
咀嚼が早すぎて、本当に胃に流し込んでいるように見えるが、ちゃんと噛んで味を堪能してはいるようなので、俺としては文句はない。
他人の食べ方にケチをつけるようなこともしたくないしね。
「あなた、領主様の前なのですから、もう少し落ち着かれても……すみません、騒がしくて」
「ん?ああ、その辺は気にしなくていいよ。虎太郎がこうなのは分かりきってるし、受け入れてるから」
実にいい食べっぷりの夫を窘める虎太郎の奥さんだが、俺としても虎太郎はこのくらいでないと逆に不気味なので気にしてなかった。
「ありがとうございます。それにしても、お米とは凄いですね。少しの工夫でここまで美味しいものが出来るなんて」
「凄く美味しいです、領主様」
俺と同い年くらいの虎太郎の娘さんも、美味しそうに牛丼を食べていたが、この子も大きくなったものだ。
「ミモザ、美味いだろ?」
「うん!」
「沢山食って、母ちゃんみてぇな良い女になるんだぞ」
「お父さん、痛いってば!もう少し優しく撫でてよ!」
実に機嫌良さそうに娘の頭を撫でる虎太郎と、それに満更でもなさそうな娘さん。
この子は、虎太郎の奥さんの連れ子なので、虎太郎とは血は繋がってないのだが、実の父親のように慕っているのは見ていれば分かる。
虎太郎も愛娘を大変可愛がってるようだし、良い親子関係を築けてて何よりだ。
やっぱり、家族関係というのは、血の繋がりだけじゃなくて、当人同士の気持ちの面も多分に影響するのだろうなぁとしみじみ思った。
「とりあえず、一通り教えたけど、作れそう?」
「ええ、問題ありません」
「そっか。何か分からなければいつでも聞きに来てよ」
「ありがとうございます、領主様」
お米を分けるついでに、虎太郎の奥さんにそれらの使い方を教えたのだが、やはりこの人はかなり料理の才能があるのか、すぐに覚えてくれて、教える分にはすごく楽であった。
ちなみに、俺の婚約者達(フィリアやセシル)の場合は、教えてないのにいつの間にか応用で新しい料理(前世であったもの含む)を作れてしまうので、控えめに言って格が違うのだが、それでも流石は虎太郎の奥さんというか、中々に凄い人だと思う。
「なあ、坊主。この丼物ってのは他にも種類があるのか?」
「まあね。色々あるよ」
今回披露したのは、虎太郎が好きそうな牛丼のみだが、豚丼、天丼、カツ丼、焼肉丼、親子丼、うな丼と丼物はとにかくレパートリーが多いので、作るのはとても楽しかったりする。
鰻もウチの領地の川に居るので、比較的手軽に食べれてしまうのが恐ろしいところ。
なお、いつもの如く鰻の焼き方なんかは最初の前世で覚えたのだが……旅館で覚える必要があったのか、今では本当に謎でしかないが、役に立ってるので気にしないでおく。
うむ、前向きにいこう。
「他のは今度教えるよ」
「おう!頼んだぜ!」
実にご機嫌な虎太郎だが、故郷の味はやはり格別なのだろう。
何となく気持ちは分かるので、少しお米をサービスしておいて俺はそっと虎太郎宅を去っていくが、出ていく時に本日何杯目か分からないお代わりを虎太郎はしていたので、渡したお米でも足りるかは不明であった。
とはいえ、食べきっても次の納品まではまだまだあるので、その時は潔く我慢してもらうとしよう。
何事も計画的にね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます