第134話 妖精の誓い

「シロよ、待たせたの。創造神の許可は取ったぞ」


女神様と妖精女王の話はしばらく続いていたのだが、ミルが20回目のお代わりを頼んだ頃には落ち着いたようで、妖精女王からそうお声がかかる。


「妖精女王。あくまで、私との繋がりを邪魔しない範囲内で……という事を伝え忘れてますよ」

「細かいことを言うの。まあ、それでも良い。シロよ、左手を出せ」

「わかりました」


恐らく、これから『妖精の誓い』をするのだろうが……実を言うと、実体験は初めてのことで、知識でその単語を知っていただけなので、これからするであろう、初めての体験に少しワクワクしていた。


俺の差し出した左手へと、妖精女王は近づくと、そっと――手の甲へと口付けをした。


「これは……」


その瞬間――俺と妖精女王の間に、目に見えない繋がりが出来たのを実感させられる。


不思議な温かさを感じながらも……妖精女王の持つ、強大な力の一端を感じるが、不思議と畏怖や恐怖や抱かなかった。


次元の違う力だから……というのも、無くはないだろうが、女神様に近しいからか、不思議と拒否感は無かったのだろう。


「うむ……無事繋がったようだの」


どこか恥ずかしそうにしながらも、そう微笑む妖精女王。


「妾も初めての事だったが……そなたから感じる力は心地よいな」

「そうですか?でも、妖精女王の力も安心感があります。なんていうかこう……優しくて落ち着く感じでしょうか?」

「……そ、そうか?まあ、それはともかく……手の甲に妾との繋がりが浮かんでおるだろ?」


そう言われて、手の甲に視線を向けると、そこには鮮やかな紋様が描かれていた。


妖精の誓いの証……なのだろうと、予想がつく。


精霊に加護を貰った時も、違う形ではあったが似たような証が浮かんでいたが……それよりも深く、俺の内へと繋がっているのが、妖精女王という存在の大きさを表していた。


「これで、そなたは妾の力の一端を借り受けることも出来るようになった。まあ、これは、妾との繋がりのオマケ程度だがな」


ふむ、その辺は精霊の加護と似たような感じなのかな?


とはいえ、精霊とは段違いの……今世で使うには大きすぎる力なので、使う機会は無いとは思うが……まあ、何にしても、貰えるものは貰っておくべきだろう。


「人間さん〜、私ともお願いしますね〜」

「はいはい」

「ちゅー」

「……わざわざ、口に出さなくても良くない?」


何故か頬に口付けをするミルだが……それによって、ミルとも繋がりが出来たのが分かった。


にしても、頬にって……見えないけど、手の甲とは違う感じで頬に証が浮かんでいるのかな?


思わず、空間魔法の別空間から、手鏡を取り出すと、予想通り、妖精女王とは別の紋様が頬に浮かんでいた。


派手なタトューじゃないんだから……


「これ、見えなくすること出来ます?」

「うむ、出来るぞ」


手の甲はさておき、頬に紋様が浮かんでいるのは流石にシュールなので、やり方を教わって見えないようにする事にした。


手の甲の、妖精女王のやつも、念の為見えないようにするが……これは念の為というか、この事自体をあまり知られないようにしたいので、そうすることにした。


ミルを預かることになったのだから、妖精のことは身内には一応説明が必要だろうが、妖精から加護を貰う……なんて、悪用したい奴らにとっては夢のような話だし、それでミルが俺のせいで狙われるのは、本意ではないので、必要なことと言えた。


そうして、俺は妖精女王とミルの2人と、妖精の誓いをその日したのだが……それを見守っていた女神様が羨ましくなったのか、自分の証を付けたくなって、俺の知らぬ間に、更に自身の俺への加護を強めたのだが……この時の俺はそんな事を知る由もないなかったのであった。


何だかんだで、そんな女神様も可愛いと思えてしまうのだから、俺もそこそこ重症なのだろうが……まあ、今更かな?













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