第90話 虎太郎の話
「うめぇ!こりゃいくらでも食えるな!」
ガツガツと食べているのはフライドポテトとソーセージの盛り合わせだ。
魔法でビールを冷やすと美味しそうに飲み干すが、これで20杯目になるだろうか?
その割には、まるで酔う気配がないが見た目通りと言えた。
かなり酒に強いのだろうが、大食いなのも予想通りで、積み上がった皿の数は既に30は超えているので、中々に燃料が居る体のようだ。
「シリウス様、何故この様な男に食事を?」
どこか警戒しながらも、聞こえないように尋ねてくるシャルティア。
「まあ、少し興味があってね」
「……シリウス様、あーん」
「あーん……セシル、いきなりはびっくりするから」
「……でも、嫌じゃないでしょ?」
「まあね」
我関せずと俺に食べさせてくるセシルは、相変わらずマイペースだが、そんな所も愛おしいものだ。
「セシル、人前でそれは……」
「……シャルティアもやればいい。私たちは婚約者なんだし、シリウス様に食べさせてあげても何の問題もない」
「しかし……」
どこか、納得が出来ないが、自分も俺に食べさせたい。
でも、それをアクションに起こすのは少し恥ずかしいと思ってそうなシャルティア。
そんな彼女には俺からアクションを起こす。
「シャルティア、あーん」
「え?あ、あーん……」
「美味しい?」
そう尋ねると頬を赤らめつつもこくりと頷くシャルティア。
「……シリウス様」
「はい、セシルもね」
「あーん……うん、シリウス様から食べさせてもらうと普段の数十倍美味しい」
「大袈裟だなぁ」
両側にシャルティアとセシルを座らせてそんなやり取りをしていると、追加の注文が食べ終わったらしい虎太郎がどこか感心したように俺を見て言った。
「すげぇな、その頑固そうな騎士さんも、眼帯ちゃんも坊主にメロメロじゃねぇか。なんか男として負けた気がするぜ」
「そう?俺としては、虎太郎みたいな逞しさも欲しいんだけどね」
「デカくても良いことないぜ?」
まあ、それはあるかもしれないけど、男としては大きくありたいものだ。
「何にしても、悪いな奢ってもらって。つい調子に乗って食べたが支払いは大丈夫か?」
「勿論、この程度なら問題ないよ」
無駄遣いはしてないので、お金に関しては余剰分も多い。
今世は特に入ってくる額も大きいので、使う機会が出来て良かったかもしれない。
「そりゃ凄いな。というか……薄々思ってたが、もしかして噂の第3王子って坊主のことか?」
「どんな噂かはしらないけど、この国のってことなら間違ってないよ」
「やっぱりか。なるほど、確かに優しげな風貌だし、一見すると女にも見えるから『聖女』とか『聖母』って噂も間違ってはないわな」
……俺って、そんな風に見られてるの?
女顔というより、童顔なのですが……子供なのでそれは仕方ないだろうが、その二つ名はどちらも遠慮したいところ。
「それで?その噂の王子様は俺に興味津々って感じか?」
「まあね、珍しい異国の人だし、興味があってね」
「まあ、確かに少しこことは文化の違いもあるが、そこまで変わってもないと思うぞ?」
そうして話される内容は、確かに俺が知っているそれっぽい少し古めの日本文化と……そして、異世界ならではの要素が混じった創作物の代名詞のような感じであった。
「なるほど、やっぱり面白いね」
「異国だと、そういう反応が多いよな。まあ、俺からしてもこの国の文化なんか珍しいと思うからそれと同じかもな」
地域や文化の違いというのは、やはりそれぞれ感じることもあるのかもしれない。
「……その服も、そっちの国のもの?」
俺にお世話をしながら、そんなことを尋ねるセシル。
「ん?ああ、着物って言ってな。男より女の方が華やかだったな」
「……そう」
チラッと俺を見てくるセシル。
その視線の意味を分からない俺ではない。
「うん、そのうち取り寄せるか現地に行けるようにしておくよ」
「……シリウス様大好き」
抱きついてくるセシルだが、普段ほとんどお強請りとかをしてくれないので、こういうチャンスは逃すべきではないだろう。
「あとは、確か武器も違うらしいな」
そう言うと、虎太郎は腰にさしていた刀を少しだけ刀身を出して見せてみる。
「……なるほど、確かに違うようだな。片方のみで斬るようだが……」
そして、こちらに反応したのはシャルティアであった。
騎士としては気になるのだろう。
「そっちも、今度良さそうなのを探すよ」
「すみません、シリウス様」
「可愛い婚約者のためだしね」
とはいえ、いくらシャルティアでも使いこなせるかは分からないかな?
剣と刀は似て非なるものだし、慣れてる剣に落ち着きそうだが……俺も地味に気になるので観賞用でも欲しいものだ。
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