第86話 姪との領地観光

「おじちゃま、おじちゃま!あれなに?」

「ん、ああ、あそこは教会だね。神様に祈るところだよ」

「へー!」


何とも無邪気にはしゃいでいる我が姪のティファニー。


城の外は未経験なので目に入るもの全てが珍しいのだろう。


あっちこっちとウロウロしては、元気に聞いてくるその姿はまさに天真爛漫といったところかな?


そんなティファニーの様子にウチの領民達も思わずニッコリしているようだ。


「あ!あれ、おいしそう!」

「おう!食べるかいお嬢様!」

「くれるの?」

「領主様の連れだろ?遠慮しないで持っててくだせぇ!」

「ありがとうごじゃます!」


串焼き屋さんのオジサンから串焼きを渡されて美味しそうに食べるティファニー。


「わざわざ、すまないね」

「いえいえ、この程度で返しきれる恩ではございやせんので、今後も是非ともご贔屓に」

「ああ、恩は貸したつもりはないけど、美味しからまた来るよ」


何とも陽気なオジサンだ。


そんな俺達のやり取りを見て微笑むのが2人。


「なんていうか……似た者同士ってやつかな?」

「それだねぇ、シリウスくんもティーちゃんも人に好かれるような才能を持ってる感じ」


姪であるティファニーは分からなくもないが……


「いや、俺にはそんなカリスマとか魅力ないからね?」

「またまた、謙遜して〜!現に私もお姉ちゃんも他の婚約者さん達も、この街の人もティーちゃんも、み〜んな、シリウスくんのこと大好きじゃん!」


……そうなのかな?


「おじちゃま、だいすきでしゅ!」

「ほら!ね!ね!」


空気を読んだのか知らないけど、何故か抱きついてくるティファニー。


嬉しいけど、串焼きのタレが付くからせめて食べてから抱きついてくれない?


グイグイくるセリアとティファニーを止める様子のないスフィアは、それを微笑ましそうに見守っていた。


「あ!あれなんだろ!」


子供とは凄まじいもので、気になると直感で動くようで、中々目を離せない。


なるほど、世のお母さん達は凄いな……この自由奔放な様子を上手く制御してるのだから。


でも、同時に、我が子が可愛い気持ちもなんとなく分かる。


こうして、チョロチョロと動き回るのを見るのは大変でもあり、同時に可愛いとも思えるし面白いとも思える。


「ねえねえ、シリウスくん」


スフィアがひっそりと、ティファニーを追いかける中、俺も追うべく歩みを進めようとすると、セリアがそっと近付いてきて耳元で囁く。


「私ね、将来はああいう元気な子が欲しいかな」


……それ、今の俺に言うこと?


まあ、セリアの言葉に少しドキッとしたのも事実だけど……


「あ、でも、ホムンクルスの体だけど、子供ってどうなるの?人間とホムンクルスのハーフ?」

「いや、魂が定着したホムンクルスは、その魂に染まるから、人間とエルフのハーフが1番確率は高いかな?」

「おー、じゃあ、頑張るね!」

「えっと……うん」


このグイグイくる感じ……本当にセシルと近いものを感じる。


姉も姉で個性的だし、何とも楽しい姉妹だが……好かれるようなことをした記憶はあんまりないんだけどなぁ……まあ、好いてくれるのは嬉しいけど。


「おじちゃまー!」


ぴゅーっと、風のように俺の元に駆け寄ってくるティファニー。


そのうち疲れて電池切れしそうだが……まあ、楽しそうだし良いか。


「これみて!ゆびわもらった!」

「へー、誰から?」

「あのひと!」


そちらを見ると、露天のお兄さんが小さく会釈する。


不審者からの不審物ではなさそうなので、一応安心していると、ティファニーが2つのデザイン違いの指輪を持ってることに気がつく。


材質はそこまでではないが……なるほど、装飾はいいね。


「おじちゃま、いっこあげる!」

「そう?ありがとう。でも、俺にもティーにもまだ大きいから……」


大人サイズのそれを、肌ざりのいい特殊素材のチェーンに引っ掛けて、簡単なネックレスを作る。


それを、ティファニーの首に付けると、ティファニーは嬉しそうにはしゃいでいた。


「おじちゃまから、こんやくゆびわもらったー!」


……ティーさんティーさん。ちょっと待とうか。


大声で、近くの領民に嬉しそうに自慢するティファニー。


その行動は大変愛らしいが、幼女に婚約指輪を贈ったなんて、ある種の事案の匂いが……なんて思っても、無邪気なティファニーを止めるのもあれだし、黙るしかない。


ただ、領民の反応が気になるところ。


皆、それを聞いても微笑ましそうにしており、むしろ『領主様、またお嫁さん増えるらしいよ』と、楽しげな声が聞こえてくる始末。


世界が違うと価値観も代わるんだねぇ……なんて、他人事のように思いながら、俺達はティファニーが疲れて寝るまで領地を案内するのであった。







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