第76話 死後の予約

……あー、ヤバい。


物凄く疲れた。


流石に魂を使う魔法は消耗が半端ないので、今すぐ寝たいくらいだ。


そう思いつつも、俺は1人、隠し部屋を探っていた。


姉妹の再会を邪魔したくないので、こうして探索してるが、隠し部屋自体には特に何も無かった。


その奥にもう1つ祭壇にも見えそうな小さな台座のようなものがある別の部屋を見つけたが、そこにも何もなかった。


ただ、俺はその部屋とよく似たような場所を知ってる気がしてそれがどこなのかを思い出そうとしていた。


どこだったか……そうだ、あそこに似てるんだ。


それは、俺が五歳になってから受けた洗礼、教会の一室の神様への祈りの白い部屋に似た雰囲気に感じたのだ。


ということは、もしかして……


俺は疲れてる頭をフル回転させてから、ゆっくりと祈るように目をつぶって手を合わせた。


女神様、聞こえてますでしょうか?


『はい、バッチリ聞こえてますよ』


マジか!?


久しぶりに聞こえてきたのは、紛れもなく俺の敬愛する女神様の声であった。


『お久しぶりですね、目を開けてみてください』


その言葉に顔をあげると、そこにはいつ見ても美しい女神様がにこやかに微笑んでいた。


「こんにちは、お元気みたいですね」

「はい、女神様も相変わらずお美しいです」


その俺の本心に女神様は少し照れるように微笑む。


なんというか、本当に見てて癒されるお人だ。


「先程は頑張りましたね」

「見ていらしたのですね。いえ……あれくらいしか、俺には出来ませんので」


本当の意味では、スフィアの妹のセリアはこの世に生き返った訳では無い。


俺が器を用意して、そこに魂の残滓の一部を宿しただけに過ぎない。


俺は万能ではない。


だから、本当の意味では救えたとは言いがたかった。


結局のところ、人の限界とは易々とは越えられないのだろう。


「いえ、それでも貴方は頑張りましたよ。だから、胸を張って下さい」


優しい微笑み。


思えば、俺がこの世界に来る前に初めて感じた優しさというものは女神様なのだろう。


だからこそ、俺は今も女神様を敬愛してるのだろうし。


「……ありがとうございます。それで、実は聞きたいことがありまして」

「ええ、どうぞ」


分かっているとばかりに頷く女神様。


その女神様に俺はこの遺跡に入ってから感じていたことに関して質問する。


「ここの遺跡なんですが、もしかして少し前まで何かが封印されてた……なんてことないですよね?」


最初は、この遺跡の宝を守るための過剰な防衛設備くらいに考えていたが、魔獣であるケルベロスの魔法陣に感じた微かな違和感。


そして、最初に入った隠し部屋に残っていた魔力の残滓から何らかの超常的な存在を幻視してしまったのでそう質問する。


杞憂なら、それでいいのだが……


「ええ、貴方が転生する少し前までは、邪神がここで眠っていました」

「……それって、今どうしてます?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。それは勇者が倒しましたから」


勇者?


この世界にも居るんだ。


「名前は桜井恵梨香(さくらいえりか)。貴方と同じく転生者ですが、いずれ会うこともあるかもしれませんね」


まあ、勇者と会っても話すことなさそうだけど。


女神様のことだし、無理矢理転生or転移させるなんて真似はされてないだろうし、転生者特有のトークは難しいかもしれないね。


「彼女は貴方を探してるみたいですけどね」

「え?何故です?」


勇者に探されるような悪いことした記憶はないけど……


「それは、そのうち分かると思いますよ。とにかく、貴方は何も心配せず、自分の人生を楽しんでください」


そう見る人に安心を与えるような笑みを浮かべる女神様。


本当にこの方はどこまでもお優しい。


俺に返せるものはあるのだろうか……なんだか、救われてばかりな気がする。


「ありますよ」

「え?本当ですか?」


当たり前のように心を読まれるが、そんなことよりと返せるものがあるという喜びの方が強かった。


「ええ、貴方が死んだら貴方の魂を私が貰いたいんです」


はてさて何かと思っていると、女神様は俺の予想外のことを申された。


「そんなことで良いんですか?」

「ええ、勿論、無理強いはしません。ただ、私は貴方を私のモノにしたいだけですから」


まるで、告白でもされてるような気分になる。


「今世はフィリアさん達のターン。死後は私のターンということだけ覚えておいてください」


そう微笑む女神様の姿が次第に遠のいていく。


これは、多分現実へと戻る合図であろう。


「女神様、ありがとうございます」

「いえいえ」


最後にそうお礼を言うと、俺の意識は暗転して、そして現実へと引き戻されるのであった。

















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