第75話 姉妹の再会
ケルベロスの居た広間を抜けて下に降りると、異世界ファンタジーあるあるの財宝だらけの部屋へと続いていた。
一見、そこが最後の部屋に見えるが、隠し通路があるのが感知系の魔法で分かっているので、後で調べるとしよう。
その前にスフィアの目的を果たすからだ。
「これ……なのかな?」
無数の財宝や魔道具に混じって、目的のものはあった。
一見、ただの水晶に見えるそれは、触れることで発動するタイプの魔道具のようだ。
「スフィア、俺は外してようか?」
「……ううん、一緒に居て欲しい」
「……そっか、分かった」
古代の魔道具だけあって、どうやらマジっぽいその魔道具の様子に念の為席を外すべきかと聞いてみたが、返ってきたのはそんな言葉であった。
信頼か、不安からなのかは定かではないが、本人の希望なので俺は側で様子を見守る。
そっと、スフィアが水晶に触れる。
すると、眩い光を放ってその水晶からホログラムのように1人の少女が浮かび上がってきた。
スフィアよりも、少し幼さが目立つエルフの女の子。
「……セリア」
ポツリと、震える声で妹の名前を呼ぶスフィア。
その少女はスフィアの言葉に視線を向けると、少しだけ泣きそうな表情で答えた。
『お姉ちゃん……なんだね』
セリアという名の少女は、周囲を少し見回してから、水晶から浮かび上がる自分を見て納得したような表情を浮かべた。
『古代の魔道具か何かで、死んじゃった私を呼んだんだね』
「セリア、私……」
『待って、お姉ちゃん。お姉ちゃん、今私に謝ろうとしてるでしょ?』
その言葉にスフィアは言葉を途切れさせる。
その罪悪感のあるような、そんな沈黙をするスフィアにセリアはくすりと笑った。
『私が死んじゃったのは、お姉ちゃんのせいじゃないよ。だから、そんな顔しないで』
「……違う、わ、私の……私が、全部私のせい……」
苦しげなスフィアのその声に、セリアはそっと触れようとして――すり抜けてしまったことに少しだけ寂しそうにしてから、頬に触れるようにそっと手を近づけて言った。
『私、いつもの笑ってるお姉ちゃんの顔が好きだよ。だから、笑って欲しいな』
その言葉にスフィアは、張り詰めたいたものが途切れたように、ポロポロと涙を流し始める。
そんなスフィアを優しく見守ってから、セリアは目立たないように後ろで空気に徹していた俺に視線を向けた。
『あなたが、お姉ちゃんと一緒に私を呼んでくれたの?』
完全に空気になりきっていたつもりなのだが……魔道具の性能なのか、生前からの本人のスペックによるものなのか、何にしても凄いものだ。
「スフィアが君に謝りたいと言っててね」
『あなたは、私が死んじゃった理由は知ってるの?』
「いいや、でも、君がスフィアにとって大切な人だったのは分かるよ」
『そっか……』
セリアは俺の言葉に少しだけ嬉しそうにしてから、涙を拭ってるスフィアを見てからかうように言った。
『男運ないお姉ちゃんにしては、珍しくまともそうで安心したよ。でも、お姉ちゃんショタコンだったんだね』
「……シリウスは、そういうのじゃないよ」
『えー、本当かなぁ』
その言葉にくすりと笑い合う姉妹。
しかし、この世界でショタコンという単語を聞く日がくるとは思わなかった。
エルフにとっては一般的な言葉なのかな?
そんなことを思ってる間に、2人は色々と話していた。
主に、スフィアが、近況を語ったり、俺とのここまでのあれこれを語ったりとしていたが、セリアはそれを嬉しそうに聞いていた。
もうしばらく、そんな時間が続いてもいいと、そう思っていたのだが、時というのはなかなか思い通りにならないらしい。
うっすらと、セリアのホログラムのような身体が消え始めたのだ。
「セリア、それ……!」
『時間かなぁ……残念、お姉ちゃんともっと話してたかったなぁ』
薄れゆく自身の身体を見てそう呟くセリア。
そんなセリアを悲しげに見つめるスフィア。
せっかく最愛の妹に会えたのに、別れなければならないという切なさ。
俺には、そんな経験はないが、ただ、スフィアの悲しそうな表情は見たくなかった。
「セリア、もう一度生き返る気はあったりする?」
『生き返るって……そんな魔法ないよね?』
「シリウス、何か方法があるの……?」
縋るような、そんな感じに聞いてくるスフィアに俺は優しく頷く。
「まあ、とは言っても、元の通りではないけどね。でも……少なくとも、スフィアが死ぬまでセリアと一緒に笑って過ごせることは保証するよ」
その俺の夢物語のような言葉に戸惑う2人だが、それでも、スフィアは俺を信じるように頷く。
「お願い、シリウス……妹を……セリアを私と一緒に」
「うん。セリアはどうかな?」
『……分かった。お姉ちゃんが信じてるようだし、私も信じるよ。よろしくね、シリウスくん』
その言葉に俺は頷いてから、水晶を手に取る。
まず、この水晶の魔道具を解析して、セリアの魂の残滓を取り出す。
セリアの魂の大半は、既に世界へと還元されて、新しく再生されているが、セリアの魂の残滓はまだこの世に僅かながら残っていた。
これが人間である場合、その多くは長い時を経る前に全て消滅してしまうだろう。
呪いのような怨念なら、それは浄化されるまで残り続けるが、セリアにはそのようなものはなく、本当に偶然残っていたからこそ、この魔道具によって魂の残滓を引き寄せられたのだろう。
まあ、セリアが人間よりも生命力に溢れるエルフなのも関係してるかもしれないが、同じエルフでも多分ハーフエルフのソルテの父親であるエルフの魂は恐らく残っていないものと思われる。
ソルテがあれだけ過酷な環境に居ながらもギリギリ生き延びられた理由の1つ、父親の残滓が加護のような形で働いていて、それが俺と出会う頃に全て消えたというのもそうだが、エルフとしてソルテの父親の力が弱かったという理由もある。
同様に、人間であるソルテの母親、セシルの父親と母親も恐らくこの魔道具で現れることはないとおもう。
残酷なことだが、それがこの魔道具の限界なのだろう。
まあ、死者と会うという人にとって禁忌の領域のことなので仕方ないと言えば仕方ないが、その分俺はソルテやセシルを側で守ってみせる。
そして、同様にせっかく会えた姉妹の絆もだ。
セリアの魂の残滓を魔法で維持しつつ、抜き出すと、俺はそれを別の入れ物へと入れて定着させる。
要するに、新しく身体を作ってそこに魂を入れたのだ。
入れ物には、この地下移籍で見つけたホムンクルスを使ってみた。
調べてみて害はないし、入れ物にはピッタリだからだ。
淡い光がホムンクルスを包み込むと、無機質な肌がやがて自然なエルフの白い肌へと変化していき、能面のようであった顔が整った美少女へと顔を変えていく。
そして、ホログラムで先程までそこに居たはずの少女が新たな生を受けてその場に現れるのであった。
……なお、肌色が多いというか、ホムンクルスからの変化で裸同然だったので変化の途中で見ないように空間魔法で布を取り出して肌を隠すことは忘れてなかった。
俺は紳士だからね。
ゆっくりと、セリアは目を開ける。
徐々に馴染んでいく身体を確かめるように自分の手を開いてから、ゆっくり閉じる。
「……私、本当に生き返ったんだ」
「セリア!」
堪らずに抱きつくスフィア。
ぐずぐずと幼子のように泣くスフィアを、セリアは優しく抱きしめる。
そんな姉妹を邪魔しないように、俺は1人疲れを隠して残りの隠し部屋へと向かうことにした。
俺が居ても邪魔だしね。
そうして、その日、1人のエルフの少女はホムンクルスという形であっても生き返るのであった。
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