第68話 珍しい来訪者

その日は、ソルテを連れて俺の領地を案内していた。


ハーフエルフのソルテだと変装していても結構目立つのだが、奇異の視線を向けてくる領民は不思議なことに今のところ1人も居なかった。


まあ、ソルテ……ハーフエルフの女の子を俺が保護したことはそれとなく、領内に情報を流していたのだが、ここまですんなり納得されるとは思わなかったというのが本音かもしれない。


というか、むしろソルテのことを新しい婚約者だと認識してる人が多くてびっくりした。


『あー、また領主様女の子囲ってる』的な?


無論、そんな声は聞いてないが、そんな視線は感じてしまうのだから、我ながら自意識過剰かもしれない。


4人も婚約者が居ると、女の子連れてるだけでそう思われても仕方ないのだが、まあ、それはそれ。


『ご主人様、ここの人達は、皆さん優しいですね』


近くの店に入って、桃ジュースを頼んで待っていると、そんな感想を呟くソルテ。


今日はソルテと2人きりなので、エルフ語でも嫉妬する人は居ないから、普通に話せた。


セシルは分かりやすく嫉妬してくれるのだが、フィリアとかシャルティアとかそういえことはあまり口には出さないし、フローラはニコニコとしてるので気にしてないのだろうか?


まあ、皆それぞれ可愛いんだけどね。


『そう?まあ、善人は比較的多いかもね』

『皆さん、ご主人様みたいに優しい目をしてます』


ちなみに、ソルテの俺への呼び方がご主人様なのは俺が強制してないとだけ弁明しておく。


別にソルテは俺の奴隷じゃないし、そう呼ぶこともないと思うのだが、本人的に1番しっくりくる呼び方なのだそうだ。


様付けで、呼ばれるのには少し慣れたが、ご主人様とは何ともむず痒くなる単語なのだが、まあ仕方ない。


にしても、俺ってそんな優しい目してるかな?


『どう?あと数年したらここで暮らすけど……』

『ご主人様と一緒なら何処にでも』


まるで雛鳥の刷り込みだなぁ……


客観的に見たら、そうなのだろう。


ある種の依存とも言えるか。


とはいえ、今のソルテには心の拠り所はあった方がいい。


俺としても、依存されるのは嫌ではないし、責任持ってソルテを幸せにするつもりなので、なんの問題もない。


まあ、俺が亡くなったらどうするのか……に関しては、色々意見も別れそうだが。


ハーフエルフだし、普通の人間より寿命の長いソルテだし、心配も無くはないが、その頃には俺の子供や孫たち、或いは曾孫とかも居るだろうし、可愛い子孫を見守ってから俺の元に来ればいいかな……なんて、考えもある。


子供でも出来れば、それもソルテにとってきっと掛け替えのない存在になるだろうしね。


……まあ、俺がソルテをナチュラルに娶るビジョンが見えてしまうが、それはそれ。


ソルテが望むなら、答えるだけだろう。


「はいよ、領主様。これはサービスね」

「いつもありがとうね」

「そっちは新しい奥方かい?可愛らしいお嬢さんだ。これはお子の誕生日も楽しみだねぇ」


そんな店主の言葉にソルテは可愛らしく頬を赤く染めた。


話すのは苦手だが、聞き取りは上手なソルテだ。


意味はちゃんと通じてるし、その上で照れるのだから可愛いものだね。


『へー、本当にハーフエルフなんだね』


ふと、俺とソルテとは違う女性の声が聞こえてきた。


しかも、今のはエルフ語だったような……


そう思って視線を向けると、深くフードを被った女性がカウンター席で手を上げていた。


多分、その人だろうと思っていると、女性は近づいてきて深く被ったフードを取る。


すると、長い耳と綺麗な緑色の髪の美しい女性がそこにはいた。


だが、その特徴を見てソルテは酷く驚いていた。


まあ、俺も少しびっくりだけど。


店内の客も驚いていたが、すぐに普通に戻ったので適応力の高さに地味にびっくりしていると、女性はくすりと笑って言った。


『それにしても、綺麗なエルフ語だ。人間なのに大したものだね』

『本家の方には負けますよ』


そう、驚いたことに人間とは接点を持ちたがらず、本来ここに居るはずのないエルフという種族が何故か俺の領内に居たのだ。


少し怯え気味のソルテを落ち着かせると、俺はその女性に尋ねた。


『格好からして冒険者とかをしてるのですか?』

『まあね、過去にSランクのランクを貰ってるよ』


果たしてその過去がいつなのやら……不老長命のエルフだし、若く見えても人間に比べて年上でも驚くことはないだろう。


『そう警戒しなくてもいいよ。そのハーフエルフの女の子には何もしないから。というか、ここの領主は変わり者って聞いてたけど、本当だったんだね。ハーフエルフをそうやって連れてて、しかも懐かれてるなんて初めて見たよ』


エルフにまで変わり者扱いかぁ……まあ、別に気にしないけど。


そのエルフの女性の様子から、少しだけ警戒を解きつつ俺は質問した。


『それで、何か用事でも?』

『ああ、ごめんごめん。気になって話をしに来ただけだよ。私の名前はスフィア。見ての通り、変わり者のエルフだよ。変わり者同士よろしくね、領主様』












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