第67話 新入りメイド
シスタシア王国での滞在も終わり、久しぶりにスレインド王国での自室で目を覚ますことになったが……起きて早々、何か違和感があった。
まあ、原因は分かってるが、あえて俺は俺の両隣に寝ている2人の少女に声をかける。
「セシル、ソルテ、何で添い寝してるの?」
メイド服を着た2人の美少女は俺の婚約者のセシルと、新しく俺のメイドさんになったハーフエルフのソルテなのだが、昨夜は2人と一緒に寝た記憶は無いので、思わず聞いていた。
そんな俺の問にセシルはごく当たり前のように答えた。
「……ソルテが寂しそうだったから、夜這いついでに添い寝してみた」
果たして夜這いのついでの添い寝とは一体……深く考えたら負けかなと思ってから、ソルテに視線を向けると、少しだけ伺うような視線を向けてきた。
まるで怒ってないだろうかという感じの視線だが、その程度で怒るような人間ではないのでとりあえず笑みを浮かべてソルテの頭を撫でておく。
『おはよう、ソルテ。よく寝れたかな?』
『はい、ご主人様の近くだったので……その、ご迷惑でしたか?』
『そんな事ないよ』
全く知らない他人が寝てたら不快にもなるが、ソルテや婚約者達ならむしろ嬉しいくらいだ。
「……むぅ、エルフ語分からない」
「ああ、ごめんごめん。それで、ソルテとは仲良くやれてるみたいだね」
「……片言だけど、コミュニケーションはバッチリ」
ソルテは俺の身の回りのお世話をするメイドさんとして迎え入れた。
なので、ソルテの教育係はセシルに任せたが、上手くやってるようで良かった。
「なら良かった。じゃあ、起きるからそろそろ離して貰ってもいいかな?」
両側から2人の美少女に抱きつかれるというシチュエーションは中々素晴らしいが、身動きが取れないのが難点かもしれない。
控えめに抱きついているソルテに対して、ガッツリと抱きついてるセシルはまあ、流石婚約者という感じだが、柔らかい感触にずっと浸ってる訳にもいかないのでそうやんわりと起きるように促す。
「……じゃあ、起きるからおはようのキスを」
「はいはい」
軽く頬にキスをするが、動く気配はない。
「唇は朝だし、またね?」
「……仕方ない」
朝からそちらをご所望されていたのかと、少し冷や汗をかくが、なんとかセシルが離れるのには成功した。
ソルテの方は、頭を撫でてお願いすればすぐに起きてくれたので助かった。
薄緑色の髪とメイド服の組み合わせは中々素晴らしいもので、朝からいい物が見れてホッコリする。
「ん?やあ、シリウス。おはよう」
手早く準備して朝ごはんに向かうと、廊下でレグルス兄様に出くわす。
朝から忙しそうな兄上ですこと。
シスタシアから帰ってきて、お仕事も溜まってるのだろう。
体には気をつけて貰うとしよう。
「おはようございます、兄様。お忙しそうですね」
「まあね、ハーフエルフの女の子とは仲良くやれてそうだね」
俺の後ろにいるソルテを見て微笑む兄様だが、当の本人のソルテはまだ少し他の人が怖いのか俺に身を寄せて兄様から隠れていた。
そんな様子に苦笑してから、兄様は言った。
「何にしても、シリウスのお陰で色々と助かってるし、僕も仕事しないとね」
「無理はダメですよ?」
「分かってるよ。まあ、父上やラウル兄さんは僕のことこき使うから、仕方ないんだけどね」
それは仕方ない。
ラウル兄様にこの手の雑務は向いてないし、内政関係などで父様がレグルス兄様を頼るよのは仕方ないだろう。
俺?
俺は、末っ子の変わり者の第3王子だし、でしゃばったりなんてしないよ。
兄2人が治める国で、のんびりと領主になればいいからね。
「そういえば、昨日やっと、デモンシュ男爵からシリウスに領地の権利が移ったよ。今度視察にでも行くといいよ」
そういえば、シスタシアに向かう前にアンデッドを倒して温泉のある領地を貰うことになったんだったっけか。
なら、今度視察に行くとしよう。
「デモンシュ男爵の末路は知りたい?」
「いえ、正直興味無いです」
どうでもいい貴族が居なくなった程度の認識なので、本当に興味無かった。
「だろうね。まあ、シリウスを逆恨みすることはないだろうし、むしろラウル兄さんが矢面に立ったから問題無さそうだけど、何かあったら教えてね」
「ありがとうございます、兄様」
なんとも優しい兄上だが、まだ仕事があるそうで会話もそこそこに去ってしまった。
後でお菓子でも作って差し入れするとするか。
ソルテの件でも、色々と場内で動いてくれてるようだし、お礼はしないとね。
兄様のサポートで、ハーフエルフに偏見を持つような人がある程度抑えられたようだし、ソルテが受け入れたのも、兄様や父様達家族のお陰なので、本当に感謝している。
まあ、俺が変わり者の第3王子だというのも大きく影響してるそうだが、嬉しそうに俺に微笑んでくれるソルテを見てると、その程度は気にならないものだ。
早く婚約者達と領地入りしたいものだが……まあ、焦ることはないか。
ゆっくりと、俺は今世をのんびり過ごさないとね。
そう、平和が1番なのだ。
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