第40話 Aランク冒険者

本日は、領地に1人で来ていた。


不思議なもので、こうして構ってくれる人が増えると1人の時間が欲しくなるもので、だからといって減ると寂しくなる。


何事も平均が丁度良さそうなのだろう。


「あ、領主様!いらっしゃいませ!」

「やあ、店主。いつもの貰えるかな?」

「はい、すぐに!」


そう言って用意するのは、もちろんお酒――などではなく、特産品である白銀桃のジュースだ。


領主の俺が飲むのをみて、子供が真似しても困るしね。


そこまで俺に人気があるのかは分からないが……孤児院の子供達がそれで大人を困らせないとも限らない。


特に何かした訳でもないのだが、好いてくれてる子供達だし、真似してくれるならカッコイイ姿を真似して貰わないとね。


そんなことを思っていると、店主が桃ジュースをジョッキに入れて持ってきてくれた。


「どうぞ!」

「ありがとう」


ここで、飲む前に冷やすのを忘れない。


庶民的な店に、氷の魔道具などある訳もなく、当然出てくるのは常温のジュースなので、きちんと冷やしておく。


そうして、1口。


うん、濃厚な桃の甘みがいいね。


「美味しいよ。最近はどう?」

「領主様のお陰で、メニューが増えて助かってます。夜の冒険者のお客以外にも昼にも集客が増えたのは大きいです」

「なら、良かった」


気に入ったお店には、こうしてたまに手助けをするのだが、うちの領地に相応しくない行いをしている奴らは早々に追い出したので文句を言う人は居なかった。


「なあ、店主。もしかして、そちらの方が噂の領主様か?」


ふと、店主と話していると、後ろからそんな声が聞こえてきた。


振り返ると、そこには男1人に女性3人の傍から見たらハーレムっぽい冒険者パーティーが居た。


「ええ、そうですよ」

「やっぱりか……隣いいですか?」

「いいよ」


そう言うと、男は「ありがとう」と普通の女性なら赤面するくらいの爽やかな笑みを浮かべて隣に座った。


まあ、同性の俺はなんとも思わないけど。


イケメンって羨ましいなぁ……と、少し思うこともあるが、顔が良すぎると逆に修羅場とか大変そうだしね。


他の3人も男性に続いて男性側に……と思っていたが、1人だけ俺の隣に座る人がいた。


「こら、メル。領主様のお許しを得てからにしろよ」

「いいじゃない、ねぇ」

「まあ、いいけど……」

「ほらね」


なんとも、気さくな女性だ。


20歳前後くらいだろうか?


魔法使いっぽいローブと、美少女と美女の中間に居そうな感じのスタイルは普通ながらも、どこか魅力的な雰囲気。


シャルティアより、少し薄めの金髪とアメイジスの瞳が綺麗なその女性は、さらりと俺の飲んでた白銀桃ジュースを飲むと、「あら、美味しい」と、ころころと笑う。


そんな女性に男はため息をつく。


「すみません、領主様」

「いや、面白い人だね。それで、俺に何か用?」

「ええ、お礼を言いたくて……」


何かお礼されるようなことしたかな?


「自分は、ヴァレリーと言います。一応、Aランク冒険者です」


Aランクの冒険者か……確かに、そんな雰囲気はあるかな。


「サンダータイガーの討伐の時に、他の依頼でここに居なくて……領主様が片付けたと聞きました。ありがとうございます」

「まあね、にしても、律儀だね」

「この街を愛する者として当然のことです。それに、領主様のお陰でこの街は前より活気が出ましたから」


……こういう冒険者いるんだね。


魔石が欲しかっただけとは言えないかなぁ。


「気にしなくていいよ。俺もこんなんでも領主だからね。ところで、冒険者家業引退したら予定ある?」

「……?いえ、特には決めてませんが」

「なら、良かったらウチで働かない?」

「領主様の所でですか?」

「うん、他のお仲間さんも良かったら」


突然の誘いに戸惑うヴァレリー達だが、1人だけ違った反応をする人もいた。


「いいわね、楽しそう」

「えっと……メルっだっけ?」

「うん、まあでも、私以外の娘は難しいかもね。その頃には、ヴァレリーの子供生んでるだろうし」

「ちょっ……メル!」

「いいじゃない、どうせ領主様もあなた達がそういう関係だって既に察してるわよ。ねぇ?」


あ、やっぱりハーレムなのか。


というか、あなた達ねぇ……


「メルは違うの?」

「私?残念ながら違うわね。ヴァレリーってイケメンだけど、私の趣味じゃないのよ」


へー、てっきり全員そうなのかと思っていたが……


ちなみに、他の2人のお仲間の女の子はメルの発言に顔を赤くして俯いていた。


「そっかそっか。まあ、乳母とか頼むかもだし、考えておいてよ」

「えっと……はい」


こくりと頷く彼女達だが、ヴァレリーも恥ずかしそうにしながら頷いていた。


「そういえば、領主様、シャルティアとセシル娶ったって本当?」

「ん?まあね」

「凄いね、領主様の成人待ったら2人ともそこそこの歳だよ?」


なんだろ……踏み込んでくるのに、嫌味を感じないこの感じ。


人柄だろうか?


「別に、年齢なんて気にしないよ。俺が好きになったから2人を婚約者にしたってだけ」

「へー、じゃあ、私がお願いしたら婚約者にしてくれるの?」

「うーん、本気ならかな?出会ったばかりだけど、メルみたいな人は嫌いじゃないし」


第一印象は悪くないので、そう答えておく。


まあ、本気ではないだろうしね。


「そう、じゃあ、気に入ったら床に呼んでよ」

「……抱き枕?」

「柔らかいよ?まあ、それ以外でもいいけど」


子供相手の会話ではないが……まあ、確かにメルが好みのタイプに近いことは否定できなかった。


見た目というか……雰囲気?


そんな感じだ。


「あれ?可愛い鳥だね」


ふと、俺の頭の上のフェニックスのフレイアちゃんに気づいてそっと頭から下ろすメル。


普段なら嫌がるはずの、フレイアちゃんだが、割と大人しくしてるのでビックリする。


「そ、そういえば、領主様はSランク冒険者に会ったことありますか?」


メルがフレイアちゃんを愛で始めたので、ヴァレリーが仕切り直すようにそんなことを聞いてきた。


「いや?見たことはないね。どうしたの?」

「いえ……他の街で聞いたことなんで本当かは分かりませんが、なんでも、ペガサスに乗ったSランク冒険者らしき人物が、サニードラゴンなどの魔物を狩って回ってると聞きまして。でも、聖獣であるペガサスを呼べる冒険者なんて自分は知らなくて、もしかしたらこの街で密かに活動してるって噂のSランク冒険者じゃないかと思いまして」


……俺の事じゃないよね?


確かに、幻惑の指輪で姿を歪めていたから、俺だとは気づかれてないだろうが……サニードラゴンは聞き覚えがあり過ぎた。


フィリアへの指輪の材料として狩った記憶がある。


「へー、凄い冒険者も居るんだね。そんな人が居るなら会ってみたいけど……無理強いて出ていかれても困るし、会える機会を楽しみにしてるよ」

「ですね!」

「あ、もちろん、ヴァレリーにも期待してるよ?何かあったら頼るから」

「はい!勿論です!」


誤魔化しつつ、ヴァレリーとも良好な関係を築く。


うん、いいね。


本当はAランク冒険者とSランク冒険者の顔は覚えておきたいのだが、偏屈な人が多いと聞くとし、無理に呼び出して街から出ていかれても困る。


こうして、自主的に街のために頑張ってくれるヴァレリーみたいな人は貴重だから確保しておかないとね。


あわよくば、冒険者引退後に我が家に。


元Aランク冒険者の家臣とか頼もしいしね。


他のメンバーは、それぞれ子供作ってるかもだが、住み込みで乳母とかお願いするのもいいだろう。


メルに関しては……まあ、本人も楽しそうと言ってたし、乳母ではなくても何かしら仕事はあるだろう。


というか、ヴァレリーかなりイケメンなのにタイプじゃないってある意味凄いな……個人的にはどんな趣味なのか大変興味があるが、聞くのは野暮なので遠慮しておく。


最低でもうちは、フィリアとセシルとシャルティアの3人と子供を作るのだから、乳母はそれなりに必要だ。


フィリアとの子供は跡取りに……まあ、厳しすぎてもダメだけど、緩すぎない程度に頑張って貰おう。


セシルとシャルティアとの子供は、分家か家臣でもいいし、自分で好きな仕事を選ばせてもいいだろう。


王族貴族とか、本当に色々考えないとダメらしい。


本当に面倒だけど、それさえこなせばスローライフ出来ると自分を鼓舞する。


「ねぇ、領主様」


そんなことを思っていると、フレイアちゃんを愛でていたメルがいつの間にかこちらを向いていた。


「どうかしたの?」

「側室増やす予定ある?」

「……質問の意図は分からないけど、俺が好きになればね」

「そっか、ならいいかな」


……何がだろう?


意味深なメルの言葉だったが、その質問の意味が他のところにあると気づいたのは、それからある程度経ってからのことだった。


結局、その日は、ヴァレリー達と親睦を深めて、メルから謎の視線を浴びて帰ったが、セシルが帰ってきて早々に「……他の女の匂いがする」とか言ったのには驚いた。


疚しいことは何もないので、普通に答えられたが……一瞬ドキリとしたのは気のせいだろう。





























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