第36話 フィリアへの愛

「――という訳で、2人が側室になりました」

「そうでしたか、おめでとうございます」


翌日、フィリアの家に行くと、俺はフィリアにそう報告する。


ヤキモチとかあるかな?と思ったが、嬉しそうに微笑む姿は、正妻の貫禄が早くもあった。


流石俺の嫁だぜ……


「……フィリア様、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「はい、仲良くしましょうね」


正妻と側室。


時にそれは、上手くいかないこともある。


正妻より側室を愛する貴族も居るそうだし、正妻と側室が険悪なんて普通なことだそうだ。


ウチの家族は、その点は結婚しても、上手くいってるようだけど。


あとは、正妻より前に側室が跡継ぎ候補の男の子を生んでのお家騒動とかかな?


貴族とは面倒なものだ。


でも、フィリアと2人は仲良く出来そうなのでそこはホッとする。


見てないところで喧嘩するかもって?


……まあ、大丈夫でしょ。


シャルティアやセシルは、その辺わかりやすいし、フィリアは話せる人が増えて喜んでるっぽいしね。


「さてと……2人とも、じゃあ、お願いね」

「……うん、わかった」

「かしこまりました」

「どうかしたのでしょうか?」


2人が俺の言葉で出ていくと、首を傾げるフィリア。


そんな彼女に俺は微笑みかけて言った。


「少しね、用事を頼んだんだ」

「そうなんですか」

「うん、それでね……フィリア」

「はい、何ですか?」


微笑む彼女に、俺は意を決して言うことにした。


「今日は、2人のことの報告だけじゃなくて……メインは別にあったんだ」


そう言ってから、立ち上がると、俺はフィリアの前に片膝をつくと、懐から用意してきた指輪を取り出す。


「これを……受け取って欲しい」

「指輪……ですか?凄く綺麗……」

「うん、婚約指輪。少し早いけど……フィリアに渡したかったんだ」


シルバー部分には、一部ミスリルゴーレムの銀色を混ぜてある。


白銀の指輪になるように調整をして貰ったのだ。


フィリアの綺麗な髪と同じように。


オレンジとブルーの装飾は、それぞれ、サニードラゴンの魔石のオレンジと、オーロラドラゴンの涙を氷の魔鉱石で加工した純度の高い青色を使用してる。


魔鉱石とは、魔力を持つ鉱石。


流出量も少ないレア物だが……俺が未開の土地の鉱山まで行って取ってきたものだ。


多分、このフィリアの指輪の素材集めが1番時間がかかった。


サニードラゴンを、ペガサスで空を飛んで探して倒して、オーロラドラゴンを標高が高い雪山で見つけて、倒さないように涙を流させ、未開の土地から氷の魔鉱石をひたすら魔法で穴を掘って探す。


その過程で得た素材で、かなりの金額になったが、愛する婚約者への贈り物としてはこのくらいは当然と言えた。


「フィリア、いつもありがとう。これからも、俺の側に居てほしい……いや、これから先も、ずっと一緒に居たい。そのささやかな証としてこれを贈りたいんだけど……受け取って貰えるかな?」

「……はい。もちろんです。私は、ずっとシリウス様のお側に居ます」

「ありがとう」


嬉しそうに微笑むフィリアの左手の薬指に指輪をはめて、俺とフィリアはそっと――キスを交わす。


思うに、これが俺のファーストキスかもしれない。


最初の前世は、彼女なんて出来るわけもなく、2度目の人生は姫様にトラウマを植え付けられた。


その時にキスなんて出来るわけもなく、俺もしたくなく、向こうも強要して来なかったので本当にそういう事をさせられただけだ。


その1回ですら、嫌々で悪寒がして気持ち悪くてたまらなかったのに、フィリアとこうしてキスをしてる時間は凄く――満たされていた。


幸せってこういうことを言うのだろうか……唇が触れてるだけなのに、フィリアをさっきより近くに感じる。


でも、それだけじゃ足りなくなるという思いもあった。


フィリアの全てを俺のものにしたい……こんなに強欲でワガママだったんだな、俺は。


永遠のような口付けを名残惜しくも終えると、フィリアも少し名残惜しそうに、どこか夢見心地のような表情を浮かべていた。


「ありがとう、フィリア」

「あ……い、いえ……」


夢見心地から覚めて、さっきまでの行為を思い出したようで赤面するフィリア。


可愛いそんな婚約者だが、俺も彼女もファーストキスでこんな反応を出来るくらいには初なのだろう。


まあ、フィリアは当然か。


実は俺も少しだけ、そういう気持ちがあるのだが……それよりも、もっとフィリアを求めたくなる気持ちを抑えるので必死だった。


8歳の俺たちが出来るのは軽いスキンシップまで。


それでいいと思っていたし、今もそう思ってる。


ただ、さっき、あの瞬間だけは、もっとフィリアを求めたくなった。


それが、愛おしいという感情だと、分かるには分かるが、あそこまで熱を持つとは……恋とは恐ろしいものだ。


ロリコンって言いたいんだろ?


いいよ、別に。


そんな称号を貰おうが、好きな人に好きを言うのが今の俺です!


……開き直りじゃないよ?


その後、嬉しそうに指輪を眺めるフィリアだったが、俺と視線が合うと恥ずかしそうに、はにかむので、それがたまらなく可愛かった。


こういう、フィリアとの日々を記録していくのも、俺の新しい人生での贅沢な時間なのかとしれない。


好きな人たちと好きに生きる……うん、それはとてもいいね。













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