第19話 膝枕
本日は、アスタルテ伯爵家にて、フィリアとまったりお茶を楽しんでいた。
8歳になったフィリアは、徐々に大人に近づくように、その愛らしさを増している。
長く綺麗な白銀の髪は、雪の妖精を思わせ、オレンジと青の瞳は澄んでおり、星空のように綺麗だ。
笑みは愛らしく、特に俺のお気に入りは恥じらう姿だ。
ちょっとしたスキンシップと、甘い言葉で頬を染めて実に初々しいが、冷静になって俺の台詞を後で思い返すと結構恥ずかしくなる。
その場の雰囲気で、甘い感じになると口も軽くなるのだろう、恋とは実に凄いものだ。
「この紅茶美味しいね」
「はい、お母様が前に王妃様とお茶会をした時に貰ったものだと仰ってました」
なるほど、母様はお茶には少しうるさいからね。
いい茶葉なのだろうが、淹れ方もなかなか素晴らしいと思う。
流石、伯爵家のメイドさんだ。
「そんないい物俺に出して良かったの?」
「その……未来の義息子のためならと……」
照れながらそんなこと言うが、なるほど、お義母さんという訳か。
にしても、フィリアのこうして照れてる姿は実に絵になるなぁ。
なんというか、甘い言葉でもっと照れさせたいところだが、それをやると止まらなくなりそうなので止めておこう。
「じゃあ、お義母さんには後でお礼をするとして……フィリアは何か欲しいものない?」
「いえ、そんな……私は、シリウス様と一緒に居られるだけ幸せですので……」
「えへへ」と、はにかむフィリア。
……やばい、可愛すぎる!
この謙虚が天然なのが末恐ろしいところが……どれだけ俺をたらしこめば気がするのやら。
正直言って、前世に比べて圧倒的に余裕のある懐なのだが、実はあんまり使ってないのでお金は貯まる一方なのだ。
どれだけ頑張っても破産は有り得ないだろうレベルのお金なので、多少の贅沢は余裕なのだが……俺自身、欲しいものは自作してしまうし、英雄だった前世の時の姫みたいにお金を使う人が居ないから、貯金が趣味になりそうだ。
聞けば、フィリアは家でもあまり何かをねだることはないそうだ。
服もアクセサリーも、最低限必要なものは買うそうだが、きちんと自分にあうものを選べてるそうだ。
俺に可愛いと思って貰えるようにコーデを頑張ってる――うん、影の努力が更に俺をフィリアの魅力へと誘ってくれる。
「うーん……じゃあ、何か俺にして欲しい事とかない?」
「して欲しいことですか……えっと、その……」
「何でも大丈夫だよ」
「で、でしたら、その……一つだけ……」
切り口を変えて見た結果、フィリアから求めるものがあってホッとする。
ただ――
「……フィリア」
「はい、なんですか?」
「これは俺が嬉しいだけなんじゃ……?」
俺は現在、フィリアの膝に膝枕をして貰っている。
横目で見上げるフィリアは、実に母性的な表情で俺の頭を優しく撫でており、そのギャップにドキリとする。
「そんな事ないですよ。凄く幸せです」
「そうなの?」
「はい、前から憧れてたんです……お母様が、お父様にしてるのを見て」
なるほど……
にしても、アスタルテ伯爵もこういうこと奥さんにして貰うんだねぇ……いや、お義母さんからしたがったのかな?
何度か話してるけど、アスタルテ伯爵は真面目なようで面倒事を嫌うような面を秘めてるのでそこはなんとなく共感出来た。
お義母さんである、アスタルテ伯爵夫人は、フィリアが綺麗に歳を重ねたような人で、性格は少し悪戯好きかな?
聞けば、娘と俺の婚約で1番テンションが高かったのがお義母さんのようで、アスタルテ伯爵は娘が王族と結婚ということで、若干面倒そうではあったが、認めてくれてるようだ。
「シリウス様の髪は綺麗ですね」
「フィリア程じゃないよ」
「いえ、凄くサラサラです。王妃様と同じで凄く綺麗です」
母様の髪は確かに綺麗だけど……俺はどうだろ?
そういえば、俺と婚約したので、フィリアは母様と話す機会も出来たようだったが……まあ、あの美貌なら惹かれるのも分からなくない。
ただ、俺的にはフィリアの髪と瞳以上に綺麗なものは知らない。
銀色の綺麗な髪も、オッドアイの澄んだ瞳も、優しい心根も、何もかもが愛おしい。
そう思って微笑むと、フィリアは頬を赤く染めて視線を逸らした。
ただ、撫でる手はやめない。
心地よい風が肌を撫でて、フィリアの優しい手の温もりが俺を安心させる。
とてつもなく贅沢な時間だなぁ……こうしていると、老後もこんな風に仲睦まじく過ごしたいと素直に思う。
目標は、お爺ちゃんお婆ちゃんになっても仲良しな夫婦。
そういう老夫婦って、最初の前世の旅館の時に常連さんに居たが素直に羨ましくて微笑ましかった。
手を繋いで、穏やかにお互いを思いあってる姿は、なかなか真似できるものじゃない。
まあ、不思議とフィリアとなら、出来る気もするけど、やっぱり好きな人、大切な人と過ごす時間は、普段の何倍も特別なものだ。
段々と微睡みながらも、フィリアが小さく口ずさむ子守り歌が心地よくて、俺は静かに身を委ねるのだった。
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