第83話 スキー旅行(二日目)・二日目の大宴会(前編)

【二巻発売・一巻重版第5刷記念】

またもや一巻が重版となり、第5刷となりました。

これも読者の皆様のお陰です!

また6月1日(水曜日)に『カノネト』2巻が発売になりました!

一人でも多くの方に読んで頂ければ幸いです。


なおこの話は、カクヨム版の続きとなります。

書籍版とは違う展開ですので、予めご了承ください。

(書籍版のパラレルワールドだと思って下さい)

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林間コースを回っていたため、今日は昨日よりもペンションに戻るのが遅くなった。

既に石田の方が先に戻っている。

俺が部屋に入るとさっそく石田が「風呂に行こうぜ」と言い、二人で風呂に入る。


「今日は炎佳ちゃんと一緒だったんだろ」


石田がそう話しかけて来る。


「ああ」


「さすが燈子先輩の妹だよな。炎佳ちゃんも大した美少女だ。ウチのサークルの連中にも大人気だしな。もう何人かは本気で狙っているみたいだ」


「外見に騙されているだけだろ。アイツの本性を知ったらきっとみんな……」


「そうか?俺には優が言うほど悪い娘には見えないがな」


そう言って石田はタオルで顔を拭う。


「石田は実際には被害に合ってないからだろ。アイツの破天荒さと言ったら並じゃないよ」


「確かに外見もハデなギャルだしな。でも今は優に一途みたいじゃないか」


「それもアイツの演技かもしれないだろ。俺はまたアイツが何かを企んでいるんじゃないかと思っている」


「そこまで警戒しているのか?」


石田は苦笑しながら、湯舟の縁に体重を預けた。


「優の言う事も一理あるけど、俺の目にはそうは思えないな。それと明華も言っていた」


明華ちゃんが?俺はその言葉が気になった。


「なんて?」


「炎佳ちゃんは一見明るくて誰にでも気軽に話せるから人付き合いが上手そうに見えるけど、実は本心は中々出せないタイプらしい。実際、彼女とずっと親しく付き合っているのは明華ぐらいらしいしな」


俺はそれを聞いて、炎佳が家出した夜に話した事を思い出した。


「実はけっこう不器用なんだって言っていたよ。色んな意味で本心とは違う態度を取ってしまう事も多いって。だから今回、彼女が優に対してストレートなのは、明華にとっても驚きらしいぞ」


……器用に見えて不器用か……


その言葉は、何となく俺にも解るような気がした。だが……


「俺は燈子さんと付き合っているんだ。たとえどれだけアイツの気持ちが本物でも、な……」


石田は黙って頷いた。



風呂を出るとすぐに夕食だ。

今日は昨日と違ってそのまま宴会に入るそうなので、夕食は大広間となっていた。

そのためビュフェではなく、和式のテーブルの上にそれぞれの料理が並ぶ。

メニューはトンカツ、玉子焼き、焼き魚、サラダ、山菜の和え物、キノコの味噌汁など一般的な料理だ。

既に燈子先輩たちは女子同士で固まって座っていたので、俺たちは別のテーブルに座る。

食事が終わると中崎さんが全員に声を掛けた。


「それじゃあ食器を片付けたら、宴会の準備に入るぞ。みんなで協力してお菓子とツマミを出してくれ。飲み物はペンション側で用意をしてくれているから」


全員でお菓子やオツマミの袋を開けて、それぞれのテーブルに配る。

ペンションの従業員が持って来た飲み物なんかも、各テーブルに配置した。


「それじゃあ始めようか!」


中崎さんの掛け声で宴会が始まる。

俺と石田は最初は同じ一年の男子と話していたが、すぐに二年の先輩三人がやって来た。


「一色ぃ~、てめぇ上手い事やりやがって」


ビール片手にニヤニヤ笑いを浮かべてその先輩が言った。


「なんの事ですか?」


「トボけんなよ」別の先輩が言う。


「JK二人の事だよ」三人目の先輩が言った。


「いや、俺は別にあの二人とは特別な事は……」


俺が全部を言う間を与えず、一人が絡んで来た。


「『特別な事は何もない』ってか?コノヤロウ、モテ男を気取りやがって」


「潰れるまで飲ますぞ!」


ともう一人が俺のグラスにビールを注ごうとする。


「いや、別に気取ってなんかいませんよ。明華ちゃんと炎佳さんは、ただサークルの外で知り合っているから」


「サークルの外で先に知り合ったから俺のモノって事か?」


「畜生。燈子さんばかりかあんな可愛い女子高生まで……清楚な美人先輩・そのギャルな妹・可愛いJK、三色同順で揃っているじゃねーか!」


「いや三色なんてもんじゃないだろ、トリプル役満だ。燈子さんだけで四暗刻単騎、それに字一色と大三元が加わったのと同じだ!」


「あの、俺、麻雀は解らないんで」


俺は苦笑しながら言った。


「なに~、じゃあ俺たちが教えてやる!」


「一色ばっかりいい思いしてるんだ。せめて麻雀ぐらいでウサを晴らさなきゃ収まらん!」


「今夜は徹マンだ!石田、オマエも入れよ」


「俺もっすか?まぁ俺は麻雀できますけど」


そんな所へ炎佳と明華ちゃんがやって来た。

さっきまで二人は男子四人ぐらいに囲まれていたが。


「すみませ~ん、アタシ達も入れて貰えますか?」


そう言って割り込むように俺の右隣に座ったのは炎佳だ。


「すみません……お兄ちゃん、ちょっと詰めて」


最初の「すみません」は本当に申し訳なさそうに、その後は半分命令口調で俺と石田の間に座ったのが明華ちゃんだ。


「おお、さっそく美少女JK二人がやって来た」


「炎佳ちゃんならいつ来ても大歓迎だよ」


だが炎佳はそんな先輩達の言葉を無視して、俺に話しかける。


「ねぇ、一色さん。この二日間、アタシ達と一緒で楽しかった?」


炎佳がそう言って俺の顔を覗き込んだ。

口調は軽いが、目が少し不安そうだ。


「まあな」


だが彼女はそんな短い返答では満足しなかったらしい。


「なによ、その『まあな』って適当な返事!普通は『凄い楽しかった』とか『もっと一緒にいたかった』とか『また二人で一緒にスキーしたいね』とか、そういう感想が着くもんじゃないの?」


不満そうにそう言う炎佳は、少し寂しそうだ。


「楽しかったとは思ってるよ。最初に考えていたよりずっとな。でもやっぱり人の目が気になるって言うか、そういうのはあるよ」


俺がそう答えると、反対側から明華ちゃんが炎佳を宥める。


「エンちゃん、今から焦ってもダメだよ。現時点では優さんの心のベクトルは燈子さんに向いているんだから。私達は少しずつ距離を詰めていかなくっちゃ」


俺は「オヤっ?」と思って明華ちゃんを見た。

見た目は炎佳の方が全然大人っぽいが、この発言を聞くと明華ちゃんの方がだいぶお姉さんに聞こえる。

この二人は見た感じとは違って、明華ちゃんが主導権を握っているのか?


ふと気が付くと、先輩達三人が離れていった。

俺を見ながらニヤリと笑う。この先、話のネタにする気だな、きっと。


「そりゃあ解っているけどさ。でもこんな可愛いアタシ達と一日一緒に居たんだよ。少しは気持ちが傾くのが人情ってもんじゃないの?」


「エンちゃんは優さんが、そんなにすぐに気持ちがグラつくような人でいいの?」


明華ちゃんの言葉に炎佳が躊躇うように答える。


「そりゃあ……イヤだけど」


「でしょ、だから焦らず急がず、じっくり関係を深めなきゃ」


それを聞いて石田が横で吹き出した。


「なに笑ってるのよ!」


明華ちゃんが、それに即座に反応する。


「いや、明華がずいぶんとご立派な事を言っているからさ。偉くなったもんだなって、思って」


明華ちゃんが赤い顔をして怒り出す。


「別にお兄ちゃんに言ってないでしょ!関係ないのに首を突っ込んで来ないでよ!」


「ハイハイ」


石田はまだおかしそうに笑いながら横を向いた。

それを見ながら、炎佳が俺に持たれるように聞いてくる。


「ねぇねぇ、一色さんは明日はお姉と一緒なんだよね」


「そうだな」


やっと燈子さんと一緒に居られる……そう思った時だ。


「でも午後には全体でレクリエーションがあるんでしょ?」


「あ、そう言えばそうだな。なんかイベントをやるって聞いていた」


「何をやるんですか?」そう聞いたは明華ちゃんだ。


「さ~、俺も知らないんだ。上の人が考えているみたいだけど」


それに炎佳が反応する。


「ハイハイ!アタシ知ってるよ。『ゾンビ鬼』をやるんだって!」


「ソンビ鬼?」


俺は聞き返した。


「そう。普通の鬼はタッチしたら鬼交代だけど、ゾンビ鬼はタッチしたら鬼が増えていくだけで交代はしないんだって」


「なるほど。それで最後まで逃げ切ったヤツが勝ち、って事か?」


「そう。だから逃げる要素と隠れる要素が大事なのかもね」


そこまで話した時だ。

サークルの部長の中崎さんがやって来た。


「楽しそうだな」


「楽しいで~す!」と炎佳。


「はい、楽しんでます」と明華ちゃん。


「そうか、それは良かった。でも楽しんでいる所を悪いけど、もう八時を回った。高校生がお酒のある場にいつまでに居るのは良くない。だから悪いけど炎佳さんと明華ちゃんは部屋に戻ってくれ」


中崎さんがそう言うと、二人は一瞬不満そうな顔をしたが、すぐに「わかりました」と言って席を立つ。

一緒に石田が「俺、二人を部屋まで送って来るよ」と言って立ち上がった。

炎佳と明華ちゃんが俺に手を振る。


「それじゃあね、一色さん。また明日」


「おやすみなさい、優さん」


「ああ、お休み」


俺もそう言って笑顔で返事を返す。



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この続きは6月25日(土曜日)に投稿予定です。

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