第75話 【一巻発売記念SS】高二の優と中三の明華
12/1に『彼女が先輩にNTRたので、先輩の彼女をNTRます』の一巻が、
角川スニーカー文庫から発売されます!
皆様、応援ありがとうございました。
その感謝の意味を込めて、昨日と今日、サイドストーリーを一話ずつ投稿させて頂きます。
なおこの話はカクヨムWEB版に準拠するお話です。
文庫版とは全く繋がらない話になります
なお時間的には三年前、優がまだ高校二年生の時の話です。
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定期テストの最終日が終わった土曜日。
俺は県立海浜幕張高校の校門を出ると、放送大学とイトーヨーカドーの間を通って自分の家に向かっていた。
とりあえず前期中間試験もマアマアの点数は取れそうだ。
もっとも俺は理数系の科目の点数はいいが、文系科目の点数が悪いため、俺が志望するレベルの大学には推薦では入れないだろうが。
……大学、どこにすっかなぁ。高田大か、慶麗大、城都大か。でも慶麗大は遠いんだよな。理工学部は神奈川県だもんな。国立だと千葉大だよな、やっぱ……
そんな事をボンヤリと考えながら信号待ちをしていた時だ。
「優さん!」
不意に横手から声を掛けられた。
振り向くと、そこには石田明華ちゃんが居た。
「あ、明華ちゃんか?久しぶり」
明華ちゃんは俺の親しい友人である石田洋太の妹だ。
学年は俺より二つ下で中学三年生。
石田は背も高くガッチリした顔にいかつい顔つきだが、明華ちゃんは小柄で目がクリッとした可愛らしい女の子だ。
正直、石田の妹には見えない。
俺は時々「実は血が繋がってないんじゃないか?」と石田をイジっている。
タッタッタと明華ちゃんは跳ねるように俺に駆け寄って来た。
「ホント、久しぶりです!最近、優さんはウチに来てくれないから、どうしたのかなって心配していたんです!」
明華ちゃんは少し頬を上気させながら、そう言った。
「そうだね、学校が始まったからね。石田とは普通に学校で話しているし。また夏休みになったら遊びに行かせてもらうよ」
俺はそう答えた。いくら親しい友人の家とは言え、長期休みでもなければそんなに頻繁に行く事はない。
「あ~、お兄ちゃんとは学校で会ってるから、ウチに来る必要はない……そうか、そうですよね」
明華ちゃんは少し寂しそうな様子で呟いた。目も伏せがちだ。
「ところで明華ちゃんは、今日はこんな所でどうしたの?何か用事?」
俺は軽く疑問を感じて尋ねた。明華ちゃんの中学は川の向こう側にあり、彼女の通学路としては反対側になるはずだ。
「え、あ、それは、そこのスーパーにちょっと買い物があって……」
明華ちゃんは伏目がちなまま、すぐ横のヨーカドーに視線を向けた。
「そうなんだ?買い物はもう済んだの?」
「いえ……まだですけど……」
しばらく口ごもっていた明華ちゃんが急に顔を上げた。
「優さん、いま時間ありますか?」
「え、なんで?」
「私、数学とか自信がないんです。それで参考書を買おうと思っているんですけど、どんな参考書を選んだらいいのか分からなくって。それで優さんに一緒に選んで欲しいんです。優さんは数学とか得意ですよね?」
彼女はまるで急き立てられたかのように、一気に早口でそう言った。
「そうなんだ?でも俺が特別できる訳じゃないよ。石田とどっこいじゃないかな?兄妹だから石田に選んでもらった方がいいんじゃないの?」
だが明華ちゃんは強く首を左右に振った。
「ううん、お兄ちゃんに教えて貰うのは嫌なんです!お兄ちゃんだとダメなんです!」
兄妹から勉強を教えて貰うってダメなのか?身近な人なら聞きやすいと思うんだが?
この辺の感覚は一人っ子の俺には解らない。
「お願いです!優さん」
明華ちゃんは必死な感じでそう言った。
「まぁ別にいいけど。試験も終わって俺もヒマだから」
「やった!」
明華ちゃんは両手を組んで小さく飛び跳ねた。
こんな事くらいで喜んでくれるなんて、可愛いなぁ、明華ちゃん。
「じゃあ行こうか?」
俺は彼女と一緒にヨーカドーに向かった。
書店で参考書を選ぶ。
「う~ん、どれなら私にピッタリなんだろう?」
明華ちゃんはいくつかある参考書を手に取りながら悩んでいた。
「どんな参考書を探しているの?」
「私も中三だから、受験対策になる参考書がいいかなって思って。この間の模試の結果も散々だったから」
「基本的な問題は解けるの?」
俺がそう聞くと、彼女は小首を傾げて困ったように笑った。
「エヘヘ、実は二次関数とか図形の問題とか苦手なんです。だいたいは解るつもりなんですが、テストになると点が取れなくて」
「だとしたらあまり分厚い参考書や難しい問題集より、基本的な問題が乗っている薄い問題集を買った方がいいよ」
俺はそう言って手頃な問題集を手にした。
「まずは学校レベル、それから公立高校入試レベルを出来るようにしないとね。それには分厚い参考書をやるより、薄い問題集をとにかく最後までやり通す方がいいんじゃないかな」
そう言いながら何冊か問題集をパラパラとめくり、その中で問題のレベルが手頃な一冊を明華ちゃんに差し出した。
彼女はそれを手にすると
「じゃあコレにします!せっかく優さんが選んでくれたんだし!」
と言って、それを胸に抱きかかえるようにしてレジに向かって行った。
レジで支払いが終わった彼女と一緒に俺は書店を出た。
明華ちゃんが俺の顔色を窺った。
「あの、優さん、まだもう少し時間あります?」
「大丈夫だよ。さっきも言った通り俺も試験は終わっているから」
「じゃあ少しでいいから、勉強方法とか教えて貰えませんか?」
明華ちゃんが参考書が入った袋を口元を隠しながら、恥ずかしそうに言った。
こんな風に言われたら「嫌だ」なんて言えないだろう。
もっとも俺も別に用事がある訳じゃないから、断るほどの事はないが。
「いいよ。でもその前に何か食べないか?俺、腹が減って来たよ。明華ちゃんは?」
「あ、私も、まだお昼は食べてないから」
「じゃあ適当にどこかに入ろうか。俺が奢るよ」
俺と明華ちゃんはドーナツショップに入った。
飲み物とドーナツを買ってテーブル席に着く。
「ありがとうございます。私の参考書を買うのに付き合って貰ったのに、奢ってまで貰うなんて」
「別にいいよ、気にしないで。俺は普段は親が仕事で家に居ないからさ。家に帰ってカップ麺食べているより、こうして誰かと一緒の方が楽しいから」
明華ちゃんが顔を上げた。何かを期待しているような顔だ。
「私と一緒にいて……楽しいですか?」
「楽しいよ。明華ちゃんは素直だし、可愛いし。正直、石田が羨ましいと思っているよ」
これは本音だ。明華ちゃんは本当に可愛らしい女の子だ。
一般的に考えられる『理想の妹』像だろう。
もちろん本当の所は解らない。家に居る時や石田の前では全然違う態度を取っているのかもしれないが、少なくとも俺の前では『可愛い妹』のイメージだ。
明華ちゃんはまた顔を赤らめながら、両手でドーナツを持ってもぐもぐと食べ始めた。
なんかハムスターとか、そういう小動物を思い出させる。
「……優さんがお兄ちゃんだったら良かったのにな」
「石田だって十分にいいお兄さんじゃないか?明華ちゃんに優しいでしょ?」
石田はけっこう妹想いだ。以前から俺と遊ぶ時も「今日は妹が家で独りだから可哀そうで」と言って明華ちゃんを連れて来る事が度々あった。俺から見て石田兄妹は『理想の兄と妹』に見えた。
「確かにお兄ちゃんは優しいかもしれないけど……でも優さんの方がなんか雰囲気も優しいって言うか、話が合うと思うんです。それにカッコイイし……」
明華ちゃんはそう言って上目遣いに俺を見る。
俺は苦笑した。
「ありがとう。俺も明華ちゃんが家族だったら楽しいと思うよ」
「か、かぞく……」
とたんに明華ちゃんの顔が真っ赤になった。
そのまま顔を伏せると慌てたようにドーナツを食べ始めた。そのままの勢いで今度はミルクティーを飲む。
彼女は無言でドーナツを平らげると、両手で顔をパタパタと仰ぎ、また俺をチラッと見た。
「あ、あのっ!」
「なに?」
俺が聞き返すと、彼女は目を丸くした上でどもりながら言った。
「い、言えっ、別に。いや、別にじゃなくって……今度、時間があったらでいいんですが……勉強を教えて貰えますか?」
「ああ、いいよ。解らない所があれば聞いてくれれば」
すると彼女は急に立ち上がった。
「今日はありがとうございました!じゃ、じゃあ、またよろしくお願いします!」
明華ちゃんは慌てた様子で頭をペコッと下げると、急いだ様子で店を出て行った。
俺はそんな彼女の様子をポカンとして見ていた。
俺は何か、マズイ事を言ったんだろうか?
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