第25話 燈子先輩と買い物デートもどき(前編)
木曜日。
今日もカレンと鴨倉は『浮気デート・デイ』らしい。
カレンから「木曜日は地元の友達と買い物して、そのまま遊びに行く」と言っていたからだ。
もちろん鴨倉の方も「木曜はバイト先でミーティングがあって、その後はみんなで軽く飲むから」と燈子先輩に言ったらしい。
鴨倉の場合は、燈子先輩だけでなく俺も高校が同じだから、ヘタに「地元の友達」とか言うと、どこからウソがバレるか解らないからな。
そう言いつつも、俺の方もこの日はちょっと浮かれていた。
と言うのも、今日は燈子先輩と一緒に『俺の服を買いに行く』約束をしていたからだ。
月曜日「Xデー」を決めた時の話だ。
「服装に無頓着な男子はけっこう多いけど、やっぱり清潔感はあった方がいい」
と燈子先輩が言ったのだ。
「服装の清潔感?俺の服は親がほぼ毎日洗濯してくれていますけど」
「君が不潔な格好をしている訳じゃないわ。私の言い方が悪かったわね。『だらしない格好をしない』と言った方がいいかしら」
「だらしない格好?」
「大学の中を思い出してみて。例えばウチの理工学部、みんな着古した感じのトレーナーかフリース、それにチェックのシャツにジーンズ。そういう格好の人が多いでしょ?」
「はぁ」
かく言う俺も、今日は上はフリースのパーカーと厚手の綿シャツ、下は高校時代から穿いているジーンズだ。
「服装が『クタッ、ヨレッ』とした感じだと、それを着ている人も何となくショボく見えちゃうのよ」
まぁそれはそうだろうな。
俺の周囲はそういうヤツが多いから、あまり気にしなかったが。
「別に高い服じゃなくていいのよ。ウニシロとかZUくらいで、十分にシャキっとした清潔感のある服装になるわ」
でも俺はお洒落には関心が無かったからなぁ。
昔から割りと親が買ってきた服を、黙って着ていたし。
「でも俺はファッション・センスが全くないので、どんな服を買ったらいいのか解らないんですよ」
すると燈子先輩は少しだけ考えた後、こう言った。
「いいわ。それじゃあ私が一緒に付き添ってあげる。この次、哲也達が逢引きする時に、私たちも一緒に買い物に行きましょう」
そんな訳で、俺は今日、燈子先輩と一緒に買い物に行く事になったのだ。
新宿駅東南改札口に着くと、待つほどもなく燈子先輩はやって来た。
「今日も君が先だね」
燈子先輩は俺の顔を見るとニコッと笑ってそう言った。
「いや、でも今日はほとんど待っていません。おそらく同じ電車だったんじゃないかな?」
今日の燈子さんは、白の薄いハーフコートと、細かい花柄のブラウス、それに黒のロング・タイトスカートだ。
スカートは太股の所までスリットが入っていて、時折見えるナマ太股が艶かしい。
そして周囲の男達の目が燈子先輩に集まるのが解る。
待ち合わせた俺は、誇らしいような、でも不釣合いで恥ずかしいような、複雑な気持ちになった。
俺達は新宿三丁目に近いカジュアル・ブランドの店「ZU」に向かった。
店内に入ると、大量生産された衣類がズラッと並んでる。
「服を選ぶ時、この種類の多さに圧倒されちゃんうですよね。自分に何が合うか、どれを組み合せればいいか、自分がいま持っている服と合うのはどれか?って」
すると燈子先輩は、店内に掛かっているモデルの写真パネルを指差した。
黒の細身のボトムと、黒いジャケットを羽織っている。
インナーは横ストライプの長袖Tシャツだ。
「あまり難しく考えないで、ああいう店で紹介されている商品を一揃い買えば間違いないわ。ああいうのは、プロが選んだものなんだから」
「そうなんですか?」
でも俺でも知っているような有名モデルと同じ服装なんて、けっこう敷居が高いんだが。
「一色君は身長は普通だけど細身だからね。大抵の服は似合うと思うわよ」
そう言って先ほどの写真モデルの服装と同じ商品を取り出し、俺の身体に当ててみてくれる。
「モノトーン系はこれでいいかな?あとはもう少しカジュアルで明るい感じもあった方がいいね」
そう言ってベージュのコットン・パンツ、落ち着いた赤の厚地のシャツ、それに茶色のベストタイプのパーカーを選んでくれた。
「とりあえず着てみて。サイズが合わなかったら交換するから」
言われるがまま、フィッティング・ルームで選んでもらった服を着てみる。
一着着る毎に、外で待っている燈子先輩に見てもらう。
「うん、いいわね。良く似合っているわ」
彼女は満足そうにそう言った。
最後にもう一式、細身のジーンズと薄いグリーンのセーターを購入し、全部で三セットの服を購入した。
>この続きは、本日17時過ぎに投稿予定です。
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