エピローグ

あれから十五年くらいか……。


魔族と人族も、お互いに不可侵条約を結び、シンクを双方の守護者とした。


人族の方も、辺境伯アラン様、女帝カグヤ、女王ルナさんで上手くやっているようだ。


ちな、ヘーゼルさんやヨゼフ様は引退したが、未だにお元気でいる。


というか、お茶友達になってる……まあ、二人とも独り身だから良いのか。


自分の娘と息子が結婚したわけだし、二人の孫もいるしな。


しかし、俺にはそれが最近のように思える。


人族にとっては、それなりに長い時間だというのに……。



「どうした?」


「エリゼか……いや、時間の流れが変わったからな」


俺や魔族達は見た目が変わらないから、感覚がずれてくる。


「早いものだな」


「ああ、だが……もうすぐだろう」


旧ザラス王国の魔物は、何とか一掃することができた。

そして、その後荒れた土地に木を植え、魔力を注いだ。

その結果、緑生い茂る木々が育ち、新鮮な空気が流れている。

そして家を建て、魔族達も暮らしている。


「ああ、お前はよくやってくれたさ」


「……認めてやらんこともない」


結局、エリゼはここに住んでいる。

もう魔の森から魔物が溢れることはないからだ。

あれは魔族の結界があったため、森全体が狭くなっていたからだ。

結界もなくなり、魔族もここに住んだ今、もう心配は要らない。

そして、ハデスとはいつもこんな感じだ。

どうやら、姉であるエリゼと俺が仲がいいのが気にくわないらしい。



あと、俺の扱いが気にくわないらしい。


「クロウ様! お疲れ様です!」


「クロウ様! 今日は良い魔素がきてますねっ!」


「クロウ様! いつもありがとうございます!」


「そっか、ありがとう。でも、シンクを褒めてやってくれ」


「シンク様はクロウ様に頼まれたと言っております!」


「我々は、おかげでこうして陽の光を浴びて生きていけます!」


「わかった! わかったから!」


感激して詰め寄ってくる魔族を押さえる日々である。

どうやら、神獣扱いのシンクの主人ということで、俺もまた崇められてしまった。

まあ……これはこれで、悪くない生活を送っている。

カグヤや娘とはたまに会うし、ナイル達とも会ったりして……。

サラさんやヘーゼルさん達や、ヨゼフ様やアラン様にも会ったりしている。


「ただ……カグヤが側にいないだけ」


それが、俺の心に穴をあける。

自分で決めたことなのに、我ながら女々しいことだ。


「クロウー!!」


「えっ?」


「グルルー!(御主人様ー!)」


「クルルー!(パパー!)」


「まさか……」


振り向くと、ハクとカグヤに——押し潰された。


「お、重いな。お前、太り過ぎじゃないか?」


「グルッ!?(はわっ!?)」


「わ、私も重いかな!? うぅー……おばさんだもん、仕方ないもん」


起き上がって、カグヤをお姫様抱っこする。


「きゃっ!?」


「何を言う。羽のように軽いじゃないか。そして、相変わらず可愛いさ」


「あ、ありがとぅ……」


多少の変化があろうが、愛する女性というのは幾つになっても可愛いものだ。

それに、歳を重ねたことも含めてカグヤだからだ。


「で、どうした?」


「城から追い出されちゃった!」


「はい?」


「みんなに邪魔だから出て行けって」


「……気を遣わしてしまったな」


「うん、みんながクロウのところに行ってくれって」


「そうか……では有難く受け取ろう。カグヤ、お前の第二の人生を俺にくれ。そして、死ぬまで側にいることを許してくれるか?」


「クロウ……うんっ! 私の残りの人生を貴方にあげる! だから——おばあちゃんになっても愛してねっ!」


「ああ、約束する」


そして……まるで昔のように、熱いキスをかわす。


「グルルー!(良かったのだっ!)」


「クルルー!(ママ! 良かったねっ!)


「お嬢様……良かったですね」


「みんな……また、よろしくねっ!」


「お帰り、カグヤ」


「うんっ! ただいま!」


こうして再び、カグヤと共に生きることができた。


それからの日々は充実し、毎日が幸せに溢れていた。


共に季節を感じ、共に生き……時間は流れていく。


そして、楽しい時間や充実した時間というのは……あっという間に過ぎていく。

















それこそ、光の速さのように。


「クロウ……ごめんなさい」


「何を謝ることがある? 俺は、お前と生きられて幸せだった。この先の人生も、この思い出があれば生きていける」


「ありがとう、クロウ。私も、貴方と出会えて幸せだったわ。まさか、こんなに生きられるなんて」


「八十五歳か……人族としては長生きだな」


「こんな皺くちゃになって……恥ずかしい」


「何をいう、相変わらず可愛いままだ」


「も、もぅ……そんなこと言うの、貴方くらいよ。ねえ……最後にキスをしてくれる?」


「ああ、もちろんだ」


そっと優しい口づけをかわす。


「ふふ……いい人生だったわ。娘も結婚して、孫も出来て……クロウと何十年と過ごせて……最後に看取ってもらえるなんて」


「後のことは心配するな。俺が、この大陸を見守っていく」


「無理だけはしないでね……?」


「ああ、もちろんだ」


「うん……じゃあ、少し眠るね……」


そして……カグヤは静かに息を引き取った。


しかし、俺の目からは涙は出ない。


もちろん悲しいし、寂しい気持ちはある。


しかし、まずは感謝の気持ちが溢れてくる。


「カグヤ、お疲れ様。こんなに長い間、俺といてくれてありがとう」


きっと、俺のために頑張ったに違いない。


それに……辛い気持ちは、これまでの思い出が支えてくれる。


「なっ、お前達」


「クルルー!(うんっ! それに、ママは幸せだって気持ちに溢れてたよっ!)」


「グルルー!(オイラ達が暗いと、カグヤさんが悲しむのだっ!」


「お嬢様……どうか安らかにお眠りください。クロウと共に、私も貴方の願いを叶えていきましょう」


「そうだな、みんな。何より……カグヤは俺の中で生き続けている」


それを忘れない限りは……。


人は忘れられた時、初めて死ぬというのだから……。













とあるところに、二本の剣を構える男がいた。


その男、戦乱の世になると何処からか現れて、民のために剣を振るう。


見たことないドラゴンとハクドラを引き連れ、戦いを鎮めていく。


皆が言う、お前は何者かと。


男は毎度のように、こう答えたと。


俺の名はクロウ! カグヤの願いを叶える者!と……。


人々は、その時に思い出す。


以前、この大陸に平和をもたらした者の名を。


その名はカグヤ-ムーンライト。


それは平和を願い、空に浮かぶ月で眠っていると伝えられる初代女帝カグヤのことなり。


そして、そのカグヤを守り抜き、カグヤが愛した男がいた。


伝説では、その男は二本の大剣を振るう最強の男。


ただ、愛する者のために剣を振るった男。


地位も名誉も求めず、ただ愛する人の願いを叶えた者。


その名はクロウ、ただのクロウ。


今もなお語り継がれる英雄譚の主人公である……。









~完~









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