最終章 そして英雄は???

会談に向けて

 あれから1ヶ月ほど経ち、皇都も落ち着きを見せていた。


 カグヤも仕事に慣れつつ、皇帝代理として働いている。


 すでに女帝と呼ばれているが、まだ儀式を行っていないので本人は代理と言っている。


 そんな暇とお金があるなら、今は他にやるべきことがあると。


 今のところ、民からの支持は厚いが……しきたりを気にする貴族にはどうだろうか?


 そもそもカグヤが女帝になることには反対意見のが多い。


 男が権力を握るのが普通なので、致し方ない部分もある。


 完全に認められるには時間がかかるだろう。


 俺を皇帝にという声も消えたわけでない。


 こっそりと俺に言い寄ってくる輩もいるくらいだ。


 もちろん全員の名前と顔は覚えているし、しっかりと報告もしておいた。


 これからの平和な時代、おそらく理知的な女性の方が争いは起きにくいと思う。


 男は見栄や名誉に拘る割合が高いからな……もちろん、良い面もあるが。


 現にマルグリッド王国は、それで長年上手くいっている。


 一時期は、祖父により国が割れそうになったらしいが……。


 孫である俺が、二の舞いを踏むわけにはいかない。


 上手く立ち回り、いずれ国から離れていかなくては……祖父のように。


 そのマルグリット王国だが、帝国に向けて会談を申し込んできた。


 これからのことについて話し合おうと……。


 そして、今日その日を迎えた……。




「さて、準備はいいか?」


「うんっ!」


「グルー!」


「クルルー!」


「団長、いってらっしゃいませ」


「ああ、ナイル。ゼノにダン、ローレンも後のことは頼むぞ?」


「お任せください!」


「へいっ!」


「仕方ないっすねー」


「あれ? 私にはなにもないのですか?」


「セシル……お前はどうしたいんだ?」


「うーん、そうですね……兄さんの代わりに野盗を始末しておきます」


「いや、それは助かるが……そういう意味ではない」


 国境付近から帰還して、引き続きゼノに稽古をつけたり。

 近衛騎士たちにまで稽古をつけたりしている。

 元々は近衛騎士に入隊するつもりだったらしい。


「まあ、兄さんの進退が決まってからにします。それまでは兄さんのいうことに従いますよ」


「気味が悪いな……」


 まさか、こいつ……俺の考えを見抜いているのか?

 いずれ、この国から出ていくことを。


「失礼ですね、兄さん。たった一人の兄さんの助けになりたいと思うのは変なことですかね?」


「俺は血の繋がりよりも、過ごした時間の密度だと思っている」


「なら、これから過ごせば良いじゃないですか」


「いや、まあ……」


「ふふ……クロウ、照れなくて良いのに」


「照れてない」


「兄さん、照れてるのですか?」


「うるさい! ほら! いくぞ!」


 こいつらは皇都に置いていく。

 俺とカグヤと、シンクとハクのみで辺境伯領へ向かう。

 そうすることによって、動き出すものをあぶり出す作戦でもある。




 全員でシンクに乗り、久々の家族行動である。


「あぁー! 気持ちいい! 久々だわっ!」


 カグヤが伸びをしてリラックスしている。

 ここんとこは、毎日肩がこるような仕事ばかりだったからな。


「クルルー!(ママー! わたしもー!)」


「グルルー!(オイラもー!)」


「ふっ、そうだな。たまにはいいだろう」


「クロウは寂しくなかったの?」


「……いや、そりゃ、寂しいが」


「ふふ……良かった」


 そう言って微笑むが……なんだか、最近カグヤの表情が柔らかくなった。

 生活自体は大変で、疲れているはずなのに。

 もしかしたら、意外と楽しんでいるのかもな。




 そして、あっという間に辺境伯領に到着する。


「今日の予定はどうするんだっけ?」


「確か三日後に会談で、それまでは自由で良いはずだ」


「じゃあ、のんびりできるわねっ! シンク!遊んであげるわっ!」


「キュルル——!!(わぁーい!)」


 羽を広げ全身で喜びを表現している。

 大きくなっても、相変わらずカグヤ大好きの甘えん坊だな。

 でもカグヤが働いている間は我慢してたから、少しは成長しているかも。


「グルルー!?(オイラはー!?)」


「お前は俺が鍛えてやる……最近、怠けているんじゃないか?」


 皇都でカグヤが甘やかすから、少し運動不足だろう。

 もはや成長で大きくなったのか、食べすぎで太ったのかわからん。


「グルッ!?(あわっ!?)」


「覚悟しろ……お前には、もっと強く気高くなってもらわないといけない」


 これからのことを考えれば、ハクの役割は大きい。

 俺自身も任せたい仕事がある。

 さらにハクの利点は、小回りがきくことだ。

 狭いところでも、常にカグヤの側にいれるからな。


「グルル……(ご主人様……)」


 俺の覚悟が伝わったのか、ハクが引き締まった表情に変わる。


「覚悟は決まったようだな、では早速」


「待て」


 風が吹き、奴が現れる。


「エリゼ! ただいま!」


「お嬢様! よくぞご無事で! 貴様、しっかりと守ったんだろうな?」


「あん? いや、もちろんだが……最近の守護者はこいつだ」


「グルッ!?(な、何!?)」


「やはり、さっきの話はそういうことか。ならば、私の出番だな」


「はい?」


「へっ?」


「クー?」


「グル?」


「私が一人前の獣に鍛え上げてやる。何、二日あればいける。ハクドラなら、私が本気で相手をしても死ぬことはあるまい」


「グ、グルル……(ご、ご主人様……)」


 先ほどの引き締まった表情は何処へやら……絶望の表情に変わる。

 まるで助けてというように……しかし、俺にはどうしようもできない。


「ハク、強く生きろ」


「グルルー!?(ご主人様ー!?)」


「ああなったら、俺にも止められない。大丈夫だ、俺も死にかけたから」


「グルルー!?(何も大丈夫じゃないよ!? ご主人様が死にかけるとか!?)」


「何をごちゃごちゃ言ってる! いくぞ!」


 その細身の身体の何処から力が出てるのか、ハクを引っ張っていく。


「エリゼー!」


「グル!(カグヤさん!)」


「ほどほどにしてあげてねー!?」


「グルー!?(カグヤさんー!?)


「畏まりましたっ! 私の命にかけて鍛え上げましょう!」


 どうやら、逆効果だったようだ。

 ハクを引きずったまま、何処かへと去っていく。


「クルルー?(お兄ちゃんはー?)」


「気にするな、シンク。俺も遊んでやるから」


「クル? クルルー!(パパも? ヤッタァー!)」


 シンクは野盗退治に貢献してるし、まだ子供だからな。


 ハクよ……骨は拾ってやるからな。

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