外伝~宰相の思惑~

 ……よし! 成功だっ!


 危険を承知で魔の森に来た甲斐があったわ。


「ガルルル……」


「良い子だ、これで……どうにかならないか」


 私の力ではこれが限界なのか?

 赤き悪魔と呼ばれるレッドウルフを使役できたのは良い。

 しかし、これではあのクロウには勝てまい。

 何より、二体の魔物が邪魔をするに違いない。


「まさか、ハクドラとドラゴンの希少種を従えているとは……」


 私の使役効果の強化により、ハクドラなら抑えることは可能かもしれん。

 ドラゴンは……おのれっ!


「このままでは計画が……カグヤに絶望を与えて、マハディーバを使役できれば、この世界を征服することも可能だというのに」


 しかし鷹を飛ばして確認したところ、奴らは皇都を掌握しつつあった。

 あの短期間で国境を守り、皇都を落とし、港町を守るとは……予想を上回っている。

 私が仕向けた野党達もことごとくやられている。

 このままではカグヤの守りも盤石になり、私の野望が……!

 どうすればいい!? このまま終わるのか……?



「ほう、人間ごときが古代魔術を使うか。もしや、我々の血が流れているのか?」


「だ、誰だっ!?」


 ここは魔の森の奥地! 普通の人間などいるわけがない!

 あたりを見渡してみるが……姿は見えない。


「ここだ」


「なっ!?」


 いつの間に後ろに!?


「な、何者だ?」


 人形のような精巧な作りをした整った顔の男がいた。

 細身ですらっとして、身長も高い。


「我の名はアルベート、魔族である」


「……はっ?」


 我ながら間抜けな声が出てしまった………。

 しかし、無理もないこと。

 魔族だと? あの文献に残っていた古代種族……いや。

 破壊神マハディーバがいると信じている以上、魔族がいてもおかしいないか。

 むしろ、信憑性が増したやもしれん。


「そ、その魔族が何の用だ?」


「俺は今、情報を欲している。マハーディバといったな? なぜ、魔神の名前を知っている?」


 魔神? マハーディバは魔神なのか?

 それよりも、こやつは強いとみた。

 ここは、争うべきではない。

 いや、もしやすると……よし、その手で行こう。


「古文書を調べたからです。事情があり……魔の森深くに入り込みとある建物に入ったところ、古文書を見つけました。そこには、マハーディバについて書かれていました」


「ほう? 人間が古代文字を解読したと?」


 ここは下手に出た方が得策だろう。

 そして、情報を欲しているということは……


「いえ、一部分だけです。大昔に封印されていること、それがとある少女に封印がされていることくらいです」


 ……どうだ? これは私にとっても賭けだ。

 情報を最小限にとどめ、上手く手を組めば……クロウを殺せるかもしれん。


「それだっ! 人間よっ! その少女を知っているか?」


「ええ、知っています」


「……教える気はあるか?」


「タダでは困りますが……」


「何を望む?」


「復讐を手伝ってくれるのであれば……」


「なるほど……約束はできないが、ひとまずは我が王に会ってもらおう」


「王ですか?」


 魔族の王がいるのか?

 そもそも、魔族とはなんだ?

 どうして、ここにいる?

 今まではどこにいた?

 いや……今は良い、私の願いが叶うならば、後のことは些事である。


「ああ、人族なら結界も通れるはずだ。少し魔素酔いはするが、お主の血があれば平気だろう」


 先ほどの言葉……私にも魔族の血が?

 私は王族の血を引いてはいたが……。


「そうですか……では、案内して頂けますか?」


「ああ、付いてくるが良い」




 その男の後をついていくと……敵が出てこない。

 もしや、この男を恐れて?

 私の使い魔も怯えてはいないが、最大限の警戒している。

 やはり、戦わなくて正解か?


「ここだ、少し待っていろ」


 すると、その男は目の前から消えた。


「な、なに!? どういうことだ? 」


 おのれ! ふつうに怯えてしまっているではないか!

 しっかりせんか! ここを逃したら……もう次はないと思え!

 あの追放された地獄の日々を思い出せ!




 五分程度経つと……。


「きょ、許可が出た……」


 うん?弱っている?


「へ、平気ですか?」


「き、気にするな。この結界を通るには仕方ないことだ。さあ、早くしろ」


 結界などは見えないが、一歩踏み出してみると……。

 景色が変わった……緑が生い茂る木々が立ち並んでいる。

 普通の緑の葉の色と違い、真緑をしている。

 何というか、空気が違う?


「さ、さあ、ついてこい」


「は、はい」


 大人しくついていくと……すぐに大きな城が見えてくる。


「あれが我らの王がいる城だ。前ぶれは出しているから、このままいくぞ」




 城の中に入り、謁見の間のような場所に行くと……。


「そなたが情報を持つ者か?」


「は、はい!」


 恐ろしいほどの美貌を持った男?いや女?がいる。

 圧倒的なオーラを放ち、戦わずとも強いのがわかる。


「では、詳しい説明をして頂けるかな? 封印している少女について知っているとか」


「ええ……実は」


 私は言葉を選びつつ、説明した。

 もしかしたら、魔神を操れることを知らないかもしれん。

 最低限カグヤという者がそうであること、今いる場所などを伝える。

 何より……クロウという強い護衛がいることを強調する。


「なるほど……そなたは国を追われたと。その際に遺跡を発見し、古代魔術を習得したと。そなたは、邪魔をしたクロウとやらに復讐がしたいと」


「ええ、そうです。それさえ果たせれば、私は満足です」


「どちらにしよ、其奴が弊害となるか……よし、わかった。では、早速向かうとしよう。部屋を用意するので、そこで待っていると良い」


「ありがとうございます。では、お待ちしております」


 礼儀正しく礼をして、その場から離れる。

 そういえば、先ほどの男はどこに?

 ……まあ、良い。


 これで、私の願いが叶うかもしれん。


 ククク……ハハッ! クロウよっ! 覚悟して待っているが良い!

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