幕間~魔族の決意~
……このままでは戦争になるか——どちらかが滅びるまで。
「ハデス様、如何なさいましたか?」
我の様子に気づいたのか、側近であるエルザが声をかけてくる。
「うむ……出て行った者達が帰ってこない」
先祖代々、何千年と経って結界が弱まってしまった。
それでも、結界を超えられるのは上級悪魔か魔族のみだ。
しかし、いずれ結界はなくなる……その時にどうするか。
「そうですね……魔力が満ちていない地とはいえ、上級悪魔や魔族が帰ってこないのは気になりますね」
「そうだ。力が弱まるとはいえ、人間ごときには負けることはないはず」
「ドラゴンやハクドラに鉢合わせたのでしょうか?」
「その可能性は否定できないが……それならば、こちらにまで戦闘音が感知できるはず」
「そうですよね……森が騒がしくなりますからね」
「うむ……この時間までに帰らないとなると、もはや死んでいることは確実だ。その理由まではわからないが……もしや、見つけた故に無理を押し通した?」
「なるほど、そういう可能性もございますね。何か手がかりを見つけて、身体が消えるのを承知で進んだと」
「そうだとすると……どうしたものか」
「どうなさいますか?」
「いや、様子を見る。そもそも、命令違反をして勝手に出て行ったのだ」
我は人族と争う気は無い。
魔神が復活すれば、魔素がばら撒かれ、魔族は住みやすくはなる。
しかし……魔王のみに伝わる言葉が気にかかる。
確か——『魔神を復活させてはいけない、それは全ての種族の敵である』
これがどういった意味で伝えられたかはわからないが……無視はできまい。
しかし、そうもいっていられない事態が起きた。
「ハデス様! ブラックドラゴンが目覚めましたっ!」
「なに!?」
ブラックドラゴンは、魔神が復活する前に目覚めると言われている。
つまりは……その時が近いということか。
「今のうちに我々も行きますか?」
死を覚悟すればいけないこともないが……。
残りの魔族はほとんど死んでしまうだろうな。
「いや奴ならば、何があろうと平気なはず。たとえハクドラやドラゴンと出会っても負けることはない。ここで待っていれば、魔神を復活させるだろう」
しかし、ことごとく予想は外れた。
……バカな、ブラックドラゴンがやられた?
待てども、復活する様子はない。
すると……同胞達が押し寄せてくる。
「魔王様! もうここから出ましょう!」
「もう限界です! このままでは死んでしまいます!」
「なぜ我々がこんな狭い森に閉じ込められるのですか!?」
我々の種族は、新鮮な森と魔素により生きる。
しかし人間が増えるにつれ、次第に森は消え、魔素も消えていった。
人間の増殖率は凄まじく、気がつけば我々の力をもってしても対抗できなかった。
最後には魔神というものに頼るが、その結果はいうまでもない。
一人の裏切り者のハイエルフにより、封印術がなされ、とある人族に封印されたと。
さらには、魔の森の前に国を立て、我々を結界により封じ込めた。
「わかった……諸君らの気持ちは。しばし時間をくれるか? すぐに決めるゆえ」
これ以上抑えることは無理であろうな。
皆、このまま死ぬくらいなら戦うと。
ブラックドラゴンが動き出したことで、魔神の復活も近いということが拍車をかけてしまった……しかし、我が同胞を死なせたくはない。
そんな中、とある情報が入ってくる。
魔神が封印されている少女の情報を持った人間を発見したと。
すぐに連れてくるように命じ、その男を連れてきてもらう。
その際に同胞を一人失ってしまったが……其奴のお陰で一番欲しい情報が得られた。
「どうしますか?」
「うむ……何か裏があるのは間違いないな」
「あの男、欲にまみれた目をしていましたね」
「しかし、一番欲しい情報が得られた。我が危惧していたのは、出て行ったところで無駄足になり全滅することだ……探すのに手間取ってな」
「そうですね。我々は、今の外の世界を知らないですから」
「ああ、その通りだ。悔しいが、奴の言うことを信じるしかない」
「欲にまみれたからこそ、嘘の可能性は低いですね」
「そうだ、その時の目は本気だった」
「如何しますか?」
「……我が行くしかないか」
このタイミングで、この情報が入った意味。
結界が緩んだこと、我々はもうすぐに滅んでしまうこと。
これらが重なったことを無視はできまい。
「あ、貴方様自ら!? い、いけません! 貴方は魔王にして最後のハイエルフなんですよ!? もう貴方の血をひくものはいません! 二人の姉妹はいないのですから!」
我には姉が二人いた。
しかし奔放な下の姉が、いつの間にか結界をこじ開け、外に出てしまった。
なまじ才能と類い稀な魔力があったために……。
上の姉は、それを探しに行き……それ以降帰ることはなかった。
おそらく、二人は生きていまい。
「しかし、下級悪魔や中級悪魔は結果を越える前に死んでしまう。超えたとしても、あの地では生きてはいけない。上級悪魔もいずれ死んでしまう。魔族ですら、活動を継続するのは困難を極める」
魔力が満ちていない地では、我々は生きていけない。
だから魔の森深くに篭り、そこで長年暮らしてきた。
忌々しいことに、一人の裏切り者によって。
「それはそうですが……では、私も」
「それはならん。我以外では、お前が唯一の高位魔族だ。残りの魔族を連れて行く」
「そ、そんなっ!?」
「我に何かあったら、お前が魔王を引き継ぐのだ」
「わ、わかりました……ご無事で」
「うむ、我とて死ぬつもりはない」
魔神復活は禁忌と伝わっているが……。
もはや、それ以外に同胞を救うことはできない。
ならば、それに賭けてみるしかあるまい。
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