答えあわせ

 ヨゼフ様は、神妙な顔をして語り出した。


「まずは、其方の出自についてだな……」


「俺が、アーサー-ランスロットの孫ということですね?」


「ああ、そうじゃ。何から話せばいいか……どこまで聞いたのだ?」


「人となり、あちらでの名声や地位、いかに偉大な人物であったかということ。王位継承争いを避けるために、自ら去って行ったと……」


「なるほど……そう伝わっておるのか。では……」


 ヨゼフ様は話してくれた。

 彼は母上を連れて、この地にやってきたと。

 しかし、自分の死期を悟っていたと。

 なので、親交があった自分に娘を託して、何処かへ消えて行ったと……。


「では、母上の母親に関しては?」


「ワシも知らんのじゃ。最後まで、それだけは教えてくれんかったのう。ただ、逆を言えば……それだけ重大な秘密があったのかもしれんな」


「そ、それよりも! クロウは平気なの!?」


 祖父は余りある魔力により、自分の身体を蝕まれていたらしい。

 そして、何もかもが俺と似ていると。


「お嬢様、ご安心ください。私がそうならないようにクロウを鍛えましたからね」


「……そういうことか。幼い頃から鍛えることで、身体に慣れさせたのか」


「エリゼ……ありがとう!」


「グハッ!? ひ、久々だと破壊力が……それに進化している……!」


「相変わらずだな……だが、礼を言う。お陰で生きていられる。そして、カグヤを守れる力を手に入れることが出来た」


「フン……お前のためではない。お嬢様が悲しむと思ったからだ」


「して、そちらでは何があった? こちらでも正体不明の奴が現れたらしい。エリゼが処理したが……エリゼと同じ魔力の流れを持っていたと」


「弱っていたが、私と同等の力を持っていたな。何かを探していたようだった」


「それは……いや、もしや……」


 何かが、繋がった気がする。


「クロウ、あの話じゃない? 冒険者達が出会ったっていう……」


「それだっ! そいつは姿形もアンタそっくりか?」


「ああ、似たようなものだった」


「では、こちらの話を……」


 魔の森での出来事、スダンビード、あちらでの事件などを話す。

 もちろん、シンクとハクのことも。

 そして……親を手にかけたことを。


「あの魔物達には、そういう経緯があったのじゃな」


「魔物がいなくなったか……私が魔の森に行くと同じような状態になる。おそらく、そいつが原因だろうな」


「しかし、お陰で古文書などを入手したので。それで、色々分かると思います。さて、本題ですが……カグヤは何者ですか?」


「どういう意味じゃ?」


「お嬢様は天使だぞ?」


「「それには同意する」」


 俺とヨゼフ様の声が重なる。


「もう! みんなっ!」


「しまった、つい……何故がわからないですが、その異形はカグヤを狙っていたようなのです。そして宰相も……」


「むぅ……すまんな、我が家の文献も失われた物が多いのじゃ。わかっていることは、この地を何としても守り抜くことのみなのだ。そして、血脈を絶やすなと」


「カグヤ様を狙っている……あいつが言っていたのはこれか? いや、しかし……」


「エリゼ……? 怖い顔してどうしたの?」


「いえ、お気になさらないでください。まとまったら話しますので」


「宰相か……あやつも謎が多い人物とのことだ」


「あっ——国境はどうなってるの!?」


「うむ、息子が情報を集めに向かっておる。明日には帰ってくるはずじゃ」


「お兄様が……会えるのも久々ね」


「俺もだな。あの方にも、きちんと挨拶をしないと」


 カグヤとアレもしたから説明しようと思うけど、全員いた方がいいだろうし。


「ところでクロウ、突然だが——お前を殺す」


「……気づいたのか?」


 どういう理屈かはわからないが、バレるとは思っていたが。


「当たり前だ。この私の、お嬢様に対する愛を舐めるなよ?」


「な、なんの話じゃ? 物騒なことを……」


「え、エリゼ? 冗談よね? 顔が本気に見えるけど……」


「私は本気です。お嬢様——純潔を捧げましたね?」


「なっ、なっ——あぅぅ……はぃ」


 カグヤが顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「純潔……はっ! そういうことか!」


「も、申しわけございません! 順番を守らずに!」


「ククク……覚悟しろ、クロウ。私のお嬢様の純潔を奪った罪は大きいぞ?」


「そ、そうか……複雑だが、お主なら許そう」


「はい、ありがとうございます」


「あぅぅ……」


「おい? 聞いているのか?」


「アンタの許可はいらない。ヨゼフ様に聞いたんだよ」


「ほう……? 生意気な口を利くようになって……少しわからせてやるか——どちらが上かということを」


「さて、どうかな? 今の俺なら——アンタにも負ける気はしないが?」


「言ったな! 小僧め! 決闘だっ! お嬢様をかけてっ!」


「良いだろう! 受けて立つ!」


「もう! 二人共! やめてってば〜!」


「うむ、懐かしき風景じゃな……」




 とまあ、冗談っぽく言ったが……実際に決闘をする流れとなった。


「さて、お前の力を見せてもらおう。どの程度まで使えるようになったかを。場合によっては——お嬢様を預けることはできないと思え。これから、あのような敵が狙ってくるのだから。その場合、私がここにて守り抜く」


「ああ、望むところだ。俺も、本気で戦える相手が欲しかったところだ」


「ふっ、生意気なというところだが……そうであろうな——ではまいる」


 エリゼが、俺に突撃してくる。

 俺も、それに剣を合わせる。


 その後、剣戟を続けると……。


「うむ……剣の腕前、それに力も上がっているな。だが、それだけだな」


「じゃあ……こんなのはどうだ?」


 闘気を高め、魔力を全身に送り留める。

 俺の体から、青いオーラが吹き出る。


「……ははっ! 驚いたな! まさか、魔力の可視化まで到達してるとはっ!」


「強くならないと愛するカグヤを守れないんでね……! ただ、この状態はキツイがな」


「無理もない! それは魔力で身体が出来ていないとな——このようにな」


 エリゼから赤いオーラが放たれる。


「まあ、アンタなら使えるだろうな」


「今回教えるつもりだったが、自分で到達したのだな。では、続きといこうか」


「望むところだ。この状態で鍛錬がしたかったからな」


 次の瞬間、エリゼが視界から消えるが……。


「そこだっ!」


 後ろからの攻撃に、剣を合わせる。


「ほう? 全ての能力が上がっているか……それに、使えこなせているな」


「ん? もう終わりか?」


 エリゼからオーラが消える。


「これはお前は控えた方がいい。鍛錬はせずに、いざという時だけ使え。その制御方は、私が口頭で説明してやる」


「……祖父のようになるからか?」


「ああ、そうだ。おそらく、奴はそれが原因だろう。いくら鍛えたとはいえ、使い過ぎれば……」


「わかった。アンタに従おう」


「ふむ……クロウよ、強くなったな」


「ヨゼフ様、ありがとうございます」


「お父様っ! クロウはね! 本当に頑張ってくれてねっ! あの時だってね……」


 カグヤは、ヨゼフ様に畳み掛けるように話しかけている。

 本当に嬉しそうな顔をして……俺では、あの顔は引き出せまい。


「クロウ」


「ん?」


「お嬢様を見ればわかる……お前がいかに大事にしていたかは——感謝する、お嬢様の笑顔を守ってくれたことを」


「いえ、それが俺の役目であり、俺の願いですから」


 久々の故郷に帰っていて思う。


 この方々も、紛れもなく俺の大事な家族だと。

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