異変の知らせと考察

 家に近づく慌ただしい気配を感じ、俺は飛び起きる。


「にゃ〜?クロウ〜?どうしたの〜?」


 ……可愛い。

 一糸まとわぬ姿は、まるで女神のようだ。

 このままもう一回……いや! そんな場合じゃない!


「すまん、カグヤ。どうやら、何かがあったらしい。ここに人がやってくる」


(ハク!)


(わかってるのだ!)


(よし、俺は表に出る。カグヤ達を頼む)


(了解なのだ!)


「ふぇっ? 何か……?……キャ——!?」


「な、なんだ!?」


「早く出てって——!」


「いや、出て行くけど……何故、今更照れる?」


 それ以上に凄いことをしているのだが……。


「それとこれとは話が別なのよ——! クロウのバカ——!」


「わ、わかった! 悪かった! では、行ってくる——!」


 ……うむ、女性とは神秘の生き物である。

 きっと、男には一生わからないのでは……?



 意識を切り替えて、戦闘態勢に入る。


 そして外に出て、その時を待つ。


「さて……何があったやら……」


 すると、すぐにゼト殿が駆けつけてくる。


「クロウ殿!」


「おはようございます、ゼト殿。何がありました?何やら只事ではない様子」


「ああ、実は……ザラス王国が滅んだかもしれん」


「……昨日のスダンビードですか?」


「おそらく……連絡員がいるのだが……大量の魔物がザラス王国領内を侵攻していたと報告があった。とても、耐えられる数ではないと。ドラゴンやオーガもいたと」


「こっちと似たような状況ってことですか……」


「ああ、そのようだ。こっちには幸い一騎当千レベルの猛者に、クロウ殿という最強クラスの漢がいたが……あっちは数こそ多いが、個の強さに秀でた者は少ないらしいからな」


「ドラゴン相手には、数がいたところでどうにもならないですからね」


「そういうことだ。今まではこんなことはあり得なかった……ドラゴンが奥地から出てくるなど……」


「確実に何かが起きていますね……それも——急速に」


「ああ、原因は未だわからないがな。ただ、ドラゴンについて少しわかったことがある。あと、古文書の内容も含めて」


「それは……随分と早いですね?」


「研究者達が徹夜で解読してくれたからな。それに、クロウ殿が持ってきた物が良かった。古い割には綺麗な状態だったしな。というわけで、このままついてきてくれるか?」


「ええ、俺も気になりますからね」


(ハク、俺は行ってくる。頼んだぞ?)


(任せるのだ!)



 その後、二人並んで領主の館へ向かう。


「一人でいいのか?」


「ええ、カグヤは……まだ、準備に時間がかかりそうです」


「ククク……そういうことか。若いっていいよな」


「からかわないでくださいよ。そういえば……ゼト殿は独身なのですか?」


「ああ、そうだな。長いこと、実ることのない片思いをしている」


「……それは、やはり……?」


「クク……付き合いの短いお前さんにも気づかれるか。まあ、そういうことだ。サラ様に恋をしているな、若い頃からずっと……もちろん、普通に女遊びもするがな」


「へぇ……ということは、振られたんですか?」


「難しいな……サラ様は『私は領主として、この身を捧げると決めている。敬愛すべき叔父上が築きあげたものを、私の代で壊すわけにはいかない』と言ってたな」


「なるほど……確かに女性の場合は、妊娠や出産もありますからね」


「ああ、そういうことだ。いや、話を聞いてくれる奴がいるのは嬉しいものだな。こんな話はそうそう言えないからな」


「……それはそうでしょうね。俺でよければ、お聞きします。その代わり、祖父とサラさんのことを聞かせてください」


「おう、ありがとな。もちろんだ、俺も聞かせてあげたい……あの方のことを」




 そんな話をしてると、領主の館に到着する。


 そのまま部屋に通されてサラさんと対面する。


「おはよう、弟よ。よく来てくれたな。まずは座ってくれ」


「おはようございます、サラさん。では、失礼します」


 ゼト殿と共に対面に座る。


「それで、わかったこととは?」


「まずはザラス王国のことは?」


「ええ、聞きました」


「では、ドラゴンについてだな……結論からいうと、ドラゴンという生き物は人間でいう少年期がないことが判明した」


「えっと……?」


「赤ん坊から、いきなり大人になるということだ」


「それが……あの繭?」


「ああ、そういうことらしい。まずは最初から説明しよう。ドラゴンは番を見つけ子供を作る。その際にオスは……メスに食べられるようだ」


「はい?」


「わ、私も驚いたがな……そういう生態らしい。そしてメスは卵を産みつつ、そのオスを食べながら卵を守るそうだ」


「なるほど……だからドラゴンの個体数が少ないのですかね」


「研究者達もそう言っていたな。そしてさらに……生まれた子供は、ある程度すると——母親は、自分の心臓を子供に食わせるらしい」


「なっ——!?」


「流石に衝撃を受けるか……私もだ」


「俺も聞いた時は絶句したさ。まさか、そんな生態をもつとはな」


「シンクの親はいない。俺が殺したから……カグヤが親だと思っている……」


「ああ、そうみたいだな。私も聞いてみた、その結果……無意識にブラックドラゴンの死体に惹かれたのではないかということだ」


「カグヤは当たり前だけど知りませんし、そんなことを俺が許すわけがない」


「そもそも、カグヤ嬢のを食べても意味がないことをわかっていたのでは?という見解も出てきたな」


「ああ、そういうことですか……それで、いつ頃目覚めるとかは?」


「それに関してはわからないが……そんなに時間はかからないというのが多くの意見だ」


「なるほど……わかりました。ありがとうございます。研究者の方々にもよろしくお伝えください」


「ああ、伝えておこう」


「それで、この後のことだが……」


「この国としては、どう動くつもりですか?」


「難しいな……とりあえずは、俺が今から王都へ向かうことになる」


「私はここに残り、残りの文献の解読を待つ形だ」


「そうですか……祖国……ベルモンド帝国の状況は?」


「それは……国境が攻められていることは間違いないだろう」


「私達も他人事ではない。あの国との付き合いもあるが、それ以上に大陸のバランスが崩れたことの方が問題だ。均衡を保ち、魔の森を見張ることが我が国の使命だからだ」


「ええ、聞かされております」


「其方達は自由に行動してくれていい。シンクのこと、カグヤ嬢のこと、異母兄弟のこと、祖国のこと……考えることは多い。カグヤ嬢と話し合って決めるといい」


「ご配慮に感謝します。では、これにて失礼します」


 ……さて、相変わらず状況の変化が激しいな。


 だが、俺の身体は一つで、人一人がやれることには限界がある。


 一つずつ、確実に解決していくしかあるまい。

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