side~辺境伯にて~
……あれから、大分時間が過ぎた。
お嬢様やクロウは、元気にやっているだろうか?
もし、お嬢様を泣かせていたら……ただではすまないぞ?
私はそんなことを考えながら、日々を過ごしていた。
魔物が出れば排除し、皇都から兵が来れば排除し。
密偵が来れば排除し、暗殺者が来れば排除した。
全く……私がいなかったら、とっくに皆死んでいるところだ。。
この目の前の役立たずも……。
「ゴハッ!?」
「弱い」
「す、すみません」
「これが次期当主と言うのだから……困ったものです」
鍛錬場にて、地に這いつくばっているこの男の名はアラン。
影の薄い……おっといけない。
まあ、なんとも平凡な男だ。
カグヤお嬢様とは違ってな。
まあ……こいつは父親似だから、仕方ないか。
「も、もう一度……!」
「根性だけは認めましょう」
その後も、遠慮なく叩きのめします。
「ゼェ、ゼェ……」
「こんなところで勘弁しましょう」
「あ、ありがとうございました!」
この男の良いところは……嫉妬にかられないことだ。
クロウに嫉妬しつつも、それを上手く消化している。
あの才能に触れて、強くなることを諦めないことも評価出来る。
「クロウも、今頃はもっと強くなっているだろう」
奴には、私の全てを叩き込んだ。
お嬢様を守れるように……。
もちろん、奴の才能があってのことだが。
執務室に移動した私は、ヨゼフに手紙を見せられる。
「なるほど……クロウは、己の出自を知りましたか」
それはマルグリッド王家からの手紙だった。
お互いに事情を説明し、良い関係を築けそうだと。
そして、いつかお邪魔してよろしいかと……お墓に。
「ああ、アーサー殿の孫だと知ったということだ。しかし、安心したわい。上手く話がまとまったようでな」
「まあ……先入観が無い方が良いと思って、我々も黙っていたわけですし」
「うむ……懐かしいの……突然現れて、どこかこの子を預ける場所はないかと聞かれたな……」
「ここでは、バレてしまうことも考えられますしね。何より、危険ですし」
「当時は……まだ、先帝がご健在でな……国も今のような状態ではなかったから、安心して信頼出来る皇都の貴族を紹介したのだが……」
「それは、お前が責任を感じることではないでしょう。誰にも読めることではない。フェイス家に養子としたことも、その後信頼していた友が死んだことも。のちに、義理の兄弟から酷い目に遭ったことも、結婚先で虐げられたことも……」
「しかし……ワシは、アーサー殿に会わせる顔がないわい。助けることもできなんだ……」
「辺境伯が皇都のことに干渉することは、あちらからしたらありえないことですから」
「ああ、下手すると戦争になるからのう。そういえば、アーサー殿は死期を悟っていたな……」
「溢れ出る魔力に、自分の身体を壊されていましたね……」
「おそらく……それが、原因なのかの?」
「わからないが……その可能性は高いな」
マルグリッド王家の男子が身体が弱かったり、早死にしてしまうことだ。
生まれつき魔力が高く、身体が耐えきれないのだろう。
魔力を見ることなど、普通の人間には出来ないらしいしな。
私は、何故が見ることが出来るが……。
「だから私は、クロウを徹底的に痛めつけました。己の魔力に壊されぬように」
「どっちかというと……お前に壊されそうじゃったけど?」
「それは仕方ないこと。それぐらいしないと意味がありませんでしたから」
「まあな……魔力を放つ技を覚えさせたのも、その一環だったのじゃろ?」
「ええ、自ら放出して消費出来るからな。何より、あの技は威力が高い」
「おかげで、カグヤを救うこともできたしな……あの娘は……クロウの母親は、ワシを恨んではいないだろうか?」
「……どうでしょうね。最後まで笑顔の方でしたから……私は好きでしたけどね。芯が強く、恨み言も言いませんでしたし」
「ワシがここに置いてやれば……」
「たらればの話はやめなさい。しかもその場合は、クロウは生まれていませんよ?」
「……それもそうじゃな……」
その時……私の魔力の網に、何かが掛かった。
「領内に何かがきた……」
「なに!?」
「では、行ってくる。私がいなくても、しっかりやれよ?」
「わかっとるわい!」
窓から飛び出して、木々を伝い、空中を飛ぶように移動する。
……ここで、反応があったはず。
そこには……1人の男が倒れていた。
もはや……長くはないだろう。
「これは……私に似ている?」
性別こそ違うが、似たような顔つきをしている。
何より……魔力の構造が同じだ。
「……濃厚な魔力の匂いと、王の匂いを辿ってみれば……同族か……」
「何を言っている……?」
「結界から出てるのに、何故使命を全うしない……?我らの王を探さない……?それとも、ここにおわすのか……?」
「どういう意味だ?」
「それに……なぜ、魔力が薄い結界の外でそうしていられる……?我々の種族は、魔界以外では生きてはいけない身体なはず……」
「おい?人の話を聞いてるのか?」
「……同族よ、王を封印している人間を殺せ。さすれば、王は復活する。魔界の封印も解け、世界は再び我らの物となる……」
その男は言いたいことだけを言い——砂のように消えていった。
……まるで、初めからいなかったように……。
「魔力で出来た人間?いや、そんな感じでは……」
我々と言ったな……私を同族と……。
王……封印……使命……。
「知ったことか。私の使命は決まっている。大恩あるあの方の願いのため、親愛なるカグヤお嬢様のため、ここを守り続ける」
そう、それで良いはずだ。
私が何者かなど、どうでも良いことだ。
……迷うな!
惑わされるな!
私はエリゼ!
それ以外の何者でもない!!
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