ブラックドラゴン

 空から降ってきたそれは、全身が漆黒に包まれていた。


 全長6メートル超えの、大きな身体。

 その身体に見合う、大きな翼。

 太く頑丈そうな腕から生える、太く鋭い爪。

 ハクすら一飲み出来そうな大きな口。

 長く、太い尻尾。

 何より……その威圧感。

 レッドドラゴンすらを軽く凌駕している……。


「まさか……この俺が震えるとはな……」


「ギシャャャ——!!」


「ま、まさか……あれが伝承の……?」


「何かご存知なのですか?」


「古より、破壊の権化が現れる時、前兆として漆黒のドラゴン現れけり。すなわち、目覚めの時近し。子孫よ、心するが良い。使命の時は来た……だったかな」


「なるほど……どう見ても、そのドラゴンですね」


「サラ様!どうなさいますか!?」


「クロウ殿、貴方の見立てはどうだ?」


「……多少強いだけでは相手にならないかと。二級……いや、一級のみでかかった方が良いかもしれないですね……」


「やはりか……しかし殆どの一級は、反対側の魔の森に行っている。あっちにも、レッドドラゴンなどが出たらしいからな……」


「……随分ドラゴンが多いですね?珍しい魔物のうえに、テリトリーから出てこないと有名ですが」


「ああ、ドラゴンに何か異常があるのかもしれんな」


 ……そういえば、シンクの様子も変だったな……。

 だが、そうするとカグヤは?

 ……わからないことだらけだ。

 今……わかっていることは、ただ一つ。


「では、俺が相手をします。ゼト殿、フォローをお願いします。ハクも頼むぞ?」


「まあ、そうなるわな」


「グルルー!(怖いけど頑張るのだ!)」


「では、私が全体を指揮しよう」


 ……カグヤ達を下がらせておいて良かった。

 あいつらなら、上手くやってくれるだろう。


「さて……ところで、あいつは何をしている……?」


 そいつは、しきりに辺りを見回している……。

 まるで、なにかを探すように……。


「ギァ………ゴガァァ——!!」


「動くぞ!?」


「あっちは……カグヤがいる方か!」


 カグヤを探していた?

 いや、今はどうでもいい!


「ハク!ブレスだ!」


「グルァ!(くらえ!)」


「ゴァ!!」


「なに!?」


 レーザービームを翼でガードだと!?

 身体を包み込むようにして、レーザービームを防ぎやがった……!

 こいつは……骨が折れそうだ。


「グルルー!?(どうしよう!?)」


 だが、ガードしたということは……。

 森の王者のレーザービームを、まともに食らうのを嫌がったということだ。


「ハク!俺が好きを作る!特大のレーザービームの準備をしておけ!」


「グルッ!(わかったのだ!)」


「俺はどうする?」


「では、後ろから攻めてください」


「了解だ……不謹慎にも、懐かしく感じる自分がいるな」


「……そうですか。では、行きますよ!」


 俺はアスカロンとアロンダイトを構えて、奴に立ち向かう!


「ゴァァ!!」


 黒い炎!?食らうのはまずいか!


「なっ——!」


 地面が……溶けた……!

 これは……避けるのも一苦労だな。


「ゴァ!!」


「ハァ!」


 爪と剣が交差する!


「ゴガァァァ!」


「行かせるかよ!」


 俺達を無視して、カグヤ達がいる方へ向かおうとしている……。


「セィ!」


「ゴガぁぁ?」


「よし!切れるぞ!」


「助かります!では、俺も!」


 アスカロンに魔力を纏わせ叩き込む!


「グキャャ——!?」


「効いてるぞ!」


「ええ!」


「ゴガァァァ!」


 あの態勢は……圧縮されたブレスか!


「来ます!俺の後ろに!」


「おう!」


 俺は前方にアスカロンを投げる。

 そして、頑丈さが売りのアロンダイトを構える。


「ゴバァァァ——!!!」


 灼熱のレーザービームが放たれる!


「ウォォォ——!!!」


 剣の柄と先をおさえて、盾のように防ぐ。


「だ、大丈夫か!?」


「ええ!古より伝わる剣ですからね!」


「しかし、動けんぞ!?」


「すぐに攻撃に移ります!準備をしておいてください!」


「何か考えがあるんだな?わかった」


 ……よし、集中しろ……この状態のまま……。


(ハク、どうだ?)


(……いけるのだ!溜まったのだ!)


(よし!では、奴の横っ腹に食らわしてやれ!誰が森の王者か思い知らせてやれ!)


(そうなのだ!オイラが森の王者なのだ!……くらえぇぇ——!!)


 ハクの口から、特大のレーザービームが放たれる!


「ゴガァァ!?」


 それは奴の横っ腹にあたり、流石のやつもよろめいている……!

 何より……ブレスが止まった!


「行きます!」


「おうよ!」


 アロンダイトをしまい、前方に放り投げたアスカロンを拾う。

 そして、勢いのままに斬りつける!


「グガァ!?」


「よし!血が流れてる!」


「俺も続くぜ!」


「グルルー!(オイラも!)


「コギァァァ——!」


 そっからは死闘だった……。

 三方向からの攻撃にも、奴は怯むことなく反撃をしてくる。


「散会!」


「おう!」


「グルッ!(あいさ!)」


 ブレスを避けつつ、少しずつ削っていく……そして……。


「ゴ、ゴガ……ァァァ!!」


 奴がダメージを無視して、大技を繰り出そうとする!


「ハク!こい!」


「グルルー!(ガッテン!)」


(全ての魔力を込めて……!)


(ご主人様に合わせるように……!)


「ゴバァァァ——!!」


 奴から黒い炎のレーザーが放たれた!


「極・魔刃剣!」


「グルァァァァ!(いっけぇぇぇぇ!)」


 同調した二つの力が混ざり合い、一つになる。


 それは奴のレーザーを飲み込み、そのまま奴に直撃する!


「グキャャ——!?」


 あまりの衝突に、全員が吹き飛ばされる!


「ケホッ!ど、どうだ?」


「グルァ(ドキドキ)」


 砂ほこりが去った後……奴は地に伏していた。


(生体反応はあるか?)


(ないのだ!やったのだ!)


「クロウ殿!無事か!?」


「ええ、大丈夫です」


「クロウ殿——!これは……?」


「サラさん、倒しました……もう、大丈夫です」


「よ、良くやってくれた!この国を代表して礼をいう!」


「俺からもだ!お前がいなきゃ、どうなっていたことか……」


「いえ、1人では無理でしたよ。ゼト殿やハクがいたからです」


「よし!とりあえずは、皆に伝えてくる!」


「俺は後ろにいる奴らに行ってきます!」


 2人はそう言い、駆け出して行った。


「ハク、よく合わせてくれたな。助かったよ」


「グル!(褒められたのだ!)」


 ……さて、色々ありすぎたな。

 考えることも……。

 ……だが、もしや……全ては一つに繋がっている予感がする……。


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