スタンビード勃発

 ……勇敢な戦士よ、安らかに眠れ……。


 俺は死体を、アイテムボックスに入れる。

 死んでるなら人間でも入れられるからな。

 証拠にもなるし、持っていった方がいいだろう。


「さて……後は安全っぽいな……後は念じるだけだな……」


(ハク!聞こえるか!?)


(聞こえるのだー!)


(カグヤの様子はどうだ?)


(うーん……まだ、苦しそうなのだ……)


(そうか……俺のいる場所はわかるな?)


(わかるのだー!連れて行けば良いー?)


(ああ、頼む。安全を確保した。では、ナイルを迎えに寄越す)


(了解なのだ!)


「フゥ……やはり便利だな。さて……ナイル!」


「はっ!」


「来た道からハクがやってくる。迎えに行ってやってくれ。俺はここで警戒網を張っておく。もし何かが来ても、俺が処理しておく」


「そうですね……俺が残っても、化け物出てきたら即死でしょうからね。わかりました、行ってきます」


「さて、ひとまず受けた依頼を完了できたが……」


 二級に近い冒険者を殺すとは……何者だろうか?

 俺ですら、勝てるかわからない相手ということか……。

 これは、ますます鍛錬を積まなくてはなるまい。

 愛するカグヤを守り抜くために……!




 その後何事も起こることなく、カグヤ達が到着する。


「カグヤ、平気か?」


「う、うん……なんとか……でも、シンクが……」


「ピー……」


「やはりリンクしているのが原因か……とりあえず、ゆっくり休んでくれ。ナイル、お前は裏口を。表側はダンに頼む。二階からローレンが見ていてくれ。ハクは中から警戒網を張り、異常があれば伝えてくれ」


「はい!」


「はいはい」


「へい!」


「グルッ!(了解なのだ!)」


「うん、ありがとう……みんな……シンク、おいで」


「ピー」


 掃除した床に毛布しき、カグヤを横たわせる。

 その上から、さらに毛布をかける。


「寒くないか?」


「うん、平気……クロウ、手を握ってくれる……?」


「お安い御用だ」


「えへへ……嬉しい……」




 手を握って数分後……カグヤは眠りについた……。


 俺はその寝顔を愛しく思いつつ、この後のことを考える。


 ……どうする?

 とりあえず、依頼は達成したが……。

 異変の調査は終わっていないし、カグヤがこれでは……。

 引き返したいが、無理に動かして良いものか……。




 それからしばらく経ち、二階にいたローレンが戻ってきた。


「団長……少し、良いですかね?」


「ローレン?どうした?二階から何か見えたか?」


「いえ……気になる本を発見しまして……」


「その真面目な顔は、いかがわしいモノではなさそうだな」


「団長は、俺をなんだと思っているんですか?」


「悪い悪い……お前がいると、ついリラックスしてな。戦場でも、お前の変わらない態度は頼りになったものだ」


「……それは、どうも……団長は丸くなりましたね……やっぱり、カグヤさんのおかげですかねー……じゃなくて!これ、見てくださいよ」


「ん?これは……読めんぞ?」


「ええ、つまりは古文書かと……俺は色々な書物を読んだ経験がありますが、こんな文字は見たことがありませんね。二階には、書物こそ古いですがいくつか残っていました。ここは、おそらく何十年も人が入っていない未開の地です。何か、重大な書物なんじゃないっすか?」


「確かに……ここは、レッドドラゴンが生息する位置より奥だ。人は中々来れないだろうし、きたとしてもこの建物を見つけることは難しいだろうな」


「ええ……しかも、何故か魔物が出てきません。だからこそ、ここまで来れたんだと思います」


「……よし、少し見ててくれ。俺がアイテムボックスにいれてくる」


「了解っす」


 俺は二階に上がり、残ってた書物をアイテムボックスにしまう。


「……古代文明の遺産ということか……ここは元々マルグリッド王国や、他の国の領地だったと聞く……」


 もしかしたら……何かわかるかもな。


 俺がそんなことを考えていると……ハクから念が送られてくる。


(ご主人様ー!)


(どうした?)


(何か、大量の反応があるのだ!)


(なに?魔物か?)


(そうなのだ!奥からいきなり沢山の反応があったのだ!こっちに向かってきてるのだ!)


(まずいな……いなくなってた魔物が戻ってきたということか?ということは……なんらかの元凶がいなくなったということか……?もしや……その謎の生き物がいたから、魔物は森から姿を消していた……?)


(わからないのだー!兎に角、いっぱいくるのだ!)


(考えてる場合じゃないか……)


 俺はそのまま、下の階に降りる。


「団長!ハクの様子が!?」


「今すぐ、ここを出る!カグヤは?」


「クロウ……平気よ。少し楽になったわ……ごめんなさい、結局足手まといで……」


「気にするな、誰にでもそういうことはある。少しずつ慣れていけば良い」


「うん、ありがとう……何かあったのね?」


「魔物の大群が来るそうだ。ローレン、二人に知らせてきてくれ。すぐに、ここを出ると」


「了解っす!」


 カグヤとシンクをハクに乗せ、俺達も外へ出る。


 そして……気配を感じ、確信する。


「団長!足音が!」


「どうしやすか?」


「団長……これは……」


「わかってる……この押し寄せる気配……スタンビードだ……!」


 どうやら……簡単に帰してくれそうにないな……!

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