冒険者として依頼を受ける
俺が領主の館に到着すると……。
「こ、これは!!クロウ様!!おい!早くお知らせをしろ!」
「はい!すぐに!」
門番達が慌てている……。
俺がアーサー殿の孫だと判明したら、いつの間にかこうなってしまったのだ。
やめてくれと言っても聞いてもらえないし……。
まあ、あっちからしたら当然のことらしいが……。
実感はまるでないが、俺は王家であり領主の血筋らしいからな……。
「クロウ様、どうぞお通りください。サラ様から言われております。ここは、貴方の家でもあると」
「いや、きっちり待たせてもらいたい。俺はあくまでも、ただのクロウです。ここでそんな振る舞いをしたら、気に入らない方もいらっしゃるでしょうし。何より道理に反しますから」
「……な、なんと……!その立ち振る舞い……!まさしくアーサー殿の生き写し!!私は、幼き頃に会ったことがあるのです!」
「そ、そうなんですか」
「はい!それはそれは素晴らしい方でした!道理に合わないことはせず、自分の強さや身分を誇示することをしませんでした!正しく、漢の中の漢です!」
「あ、ありがとうございます」
……うーん、嬉しいは嬉しいだけどな。
皆の熱気がこもりすぎて、どうしていいかわからん……。
その後戻ってきた兵士に案内され、サラさんの部屋に通される。
「弟よ!よく来てくれた!」
「はい、貴女は黙ってください。クロウ殿、呼び出してすまなかったな」
「い、いえ……大丈夫です、ゼト殿」
「おい?私は領主だぞ?」
「では尚更のこと。ほら、大事な話があるのでしょう?」
「うむ……弟とお茶でもしたいところだが、そうもいかないか」
「なにかありましたか?」
「うむ……魔の森に調査隊を派遣したのだが……帰ってこないのだ」
「……俺が異常を知らせた後に向かったのですよね?」
「ああ……其方が苦戦したという化け物や、オーガといった魔物が入り口付近にいるというのは異常事態だからな。なので、腕利きを派遣したのだが……」
「俺も知る奴らでな。パーティー名は、赤き流星という。冒険者ランクは3級から4級の強者揃いのパーティーだ」
「なるほど……そのパーティーが帰ってこないと……」
「そうだ、何かがあったのだろうな……なので、私が頼みたいのは……」
「俺に調べて欲しいということですか?生きてるかどうかも含めて」
「う、うむ……もちろん、断ってくれても構わない。其方には、其方の事情があるだろうしな」
……どうする?
俺の心情的にも受けたいところだが……お金を稼ぐ意味でも。
何より……カグヤのことを調べる意味でも。
あの森には何かがあるのかもしれない……。
それに、待っているだけは性に合わないしな……。
ここは多少危険だが、こっちから乗り込んでみるか……。
「もちろん、報酬はありますよね?」
「もちろんだ。それ相応の対価を支払う」
「本当なら俺が行きたいんだがな……一級クラスの奴らを行かせても良いんだが、奴らは協調性がないからなぁ……頭も良くないし……強いというのも考えものだ」
「いえ、ゼト殿はここの要の人です。俺には心強い相棒がいますからね。森に詳しく、尚且つ強い奴が。おそらく俺が適任でしょう。わかりました、引き受けましょう」
「……そうか、そう言ってくれるか。其方ほどの強さと知性を持つ者は稀有な存在なのだ。身内としてでなく、この都市を治める領主として感謝する」
「俺からもよろしく頼む。死んでいたとしても、理由くらいは知っておきたい」
「お二人とも、頭を上げてください。ええ、わかりました。では、早速向かいますね」
領主の館からの帰り道……俺は考える。
「カグヤは連れて行かなくてはいけないよな……謎が解けないし……ここに置いておいていったからといって安全ではないし……追っ手はまだくるだろうしな」
……シンクはどうする?
成長したとはいえ、まだまだ子供だろう。
「団長!」
「こんにちは!クロウ様!」
「ん?ナイルにアリスか。二人でどうした?」
「いえ、少し買い出しをしてまして……何かお悩みの様子でしたか?」
「そうだな……俺は、今から冒険者として魔の森へ向かう。異常があったのは知っているな?」
「はい、団長が苦戦したほどのバケモノがいたと……」
「調査隊が帰ってこないそうだ。なので、俺が行くことにしたが……ナイル、お前に俺の背中を任せてもいいか?」
「え……?し、しかし……俺にはもう信頼しないと……」
「そこは変わらんさ。だが、それが背中を任せられるかはどうかとは別だ。信用はしているしな……これは、ただの友人としての頼みだ」
「ゥゥゥ……!」
「泣くなよ、いい大人が……」
「だっで……団長が、俺に……」
「グスッ……良かったね、お兄ちゃん……」
「おいおい、アリスまで……」
「す、すみません……他の奴らはどうしますか?」
「連れてくるといい。だが、正直言って戦力には期待しない。わかるな?」
「はい、もちろんですね。団長が苦戦するほどの奴では、我々では足手纏いですね。我々の役目は後ろからついていき、いざという時に知らせるため。そして団長が後ろを気にせず、前のみに集中するため。さらには、カグヤ様の護衛ですね?」
「察しが良くて助かる……やはり、俺の背中はお前に預けるのが一番良さそうだな」
「………」
「だから!泣きそうになるな!」
「うぇーん!お兄ちゃん!良かったよぉー!ずっと気にしてたもんね!」
「……誠心誠意努めてまいります!団長!貴方の背中をもう一度守らせてください!!」
こうして準備は整った。
最近の出来事により、俺も一人ではないことに気がついた。
そしてどんなに強くても、人1人に出来ることには限界があると……。
これからは少しずつだが、歩み寄っていこうと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます