幕間~宰相視点~

 ……チィ!!マルグリッド王国め……!


 調子に乗りおって……!


やはり、マルグリッド王国とクロウは関係があったのだろうな……。


もちろん、私も詳しいことは知らないが……。


 どちらにしろ、今あの国とことを構えることは得策ではない……。


 騎士団の精強さは、よく知っている。


 私がいた国でも、兵士同士で魔の森にて出会うことはあった。


 人数こそ少ないが一人一人の練度が高く、戦争すれば負けることはないが……。


 こちらも、下手すると再起不能なダメージを負うことは必須だ。


 ……だと言うのに、このアホ皇太子ときたら……。


 勝手にクロウとカグヤを引き渡すように、あの国に要求しておった…!


 私が国境付近や、港町を視察している間に……。


 やはり、あの時のクロウによるダメージが痛かった……!


 怪我こそ治ったが、魔物の使役能力も下がり、新たな魔物も増えていない。


 何より、あの鷹は遠くに視察できる奴だったので、それも痛かった……。


 おかげで、脚を使って視察に行かなくてはならなくなったのだ……!


 それに……今はクロウを倒すための魔物でキャパシティがないからな……。


 おのれ……!どいつもこいつも……!いずれ、目にものを見せてやろう……!



「……相……宰相……宰相!!」


 ……おっといかんな。

 あまりに酷い報告を受けて、意識が飛んでしまったな……。


「カイル様、申し訳ありません。して、返答はなんと?」


「奴ら、そんな者はいないとほざきやがった……!ふざけやがって……!」


「そうなるでしょうな」


「属国の分際で生意気な……!滅ぼしてやろうか!?」


「落ち着いてくださいませ。今は得策ではございません。いずれ時が来れば、かの国も気づくでしょう。誰に従うべきかを……それまでは、放っておきましょう。それに……あっちが知らないというなら好都合です。奴らがいなくなっても、こちらも惚けることが出来ますから」


「ねえ?お父様。もういいでしょう?途中だったのに……」


 ……元はと言えば、貴様がきちんと見てないからだろうが!!

 この役立たずめ……!やはり、色欲以外では役に立たないか……。

 まあ、いい……事が終わった後には、貴様にも消えてもらおう。

 私のことをあまりに知りすぎているからな……。


「そうだな……で、例の作戦はどうなってる?」


「はっ、この後会う予定でございます。そして、すぐにでも出発させましょう」


「フン……それなら、いい。いいか?この俺様がお前に特別に目をかけている理由は、お前が役にたつからだ。あんまり失敗するようなら、いくら寛大な俺様でも限度というものがある。わかったか!?」


「はい、わかっております。カイン様の寛大なお心に感謝いたします。それでは失礼いたします」


「ねぇ〜?カイン様のアレが欲しいですぅ……」


「五月蝿い!!……チッ!仕方ない!貴様で憂さを晴らしてやる!」


「あぁ……ステキ……」


 ……そろそろこいつで抑えるのも限界に近いか……。


 私は娘の喘ぎ声とアホ皇太子の罵声を聞きながら、部屋を後にした。





「もう、そろそろいいかもしれんな……」


 私はとある部屋に向かう途中に考えていた。

 私の地盤固めもそろそろ完成を迎える。

 そうなれば、皇太子も用済みということに。


「だが……そのためには大義名分が必要だ。やはり、カグヤを手に入れないことには始まらないか……」


 最悪の場合はいなくてもどうにかなるように、準備だけはしてあるが……。


 そしてとある部屋に到着する。

 この部屋は、完全なる私のテリトリーだ。

 なので、ここでは何を話しても問題がない。

 中に入ると、整った容姿の青年が直立不動の姿勢で立っていた。


「待たせたかな?」


「いえ!こちらこそ遅くなり申し訳ありません!」


「なに、気にせんで良い。さて……今回のこと済まなかった。私にも皇太子様をお止めすることはできなんだ……!」


「いえ!頭をお上げください!悪いのは奴です!両親が死んだのは、奴が反逆者だからです!私は貴方のご温情により生かされたと聞いております!感謝こそすれど、謝られることはございません!」


「そうか……そう言ってくれると、こちらも少し気が楽になる。だが、謝らせてくれ。でないと、私の気が済まない……!」


「宰相様……わかりました、受け取りましょう」


「ありがとう。では、早速だが……」


「ええ、なんなりと申し付けください。必ずや、奴を殺して見せましょう……!」


「すまぬな、兄殺しをさせてしまうことを。だが、でないとお主を庇いきれないのだ」


「分かっています。問題ありません、奴を兄弟と思ったことはございませんから。会ったこともございませんしね」


「そういえば、そうであったな。歳も2歳しか違わないし、お主は強いと評判だからな。私の魔物と協力すれば、クロウを倒すことも可能であろう」


「ええ、お任せを。して、その魔物はどちらに?」


「慌てるでない……出でよ!シャドーウルフよ!」


 私の陰から体長1メートルほどの狼が現れる。


「そ、それは……?」


「知らぬのも無理はない。魔の森の奥地に生息している魔物だからな。シャドーウルフといい、影に隠れる能力を持っている。もちろん、単純な戦闘力も三級相当はある」


「なるほど……私の影に潜ませて、隙を見て出てくるってことですか……」


「察しがいい、楽で助かるぞ。そういうことだ……シャドーウルフ!其奴の影に潜め!そして我の合図でクロウを仕留めるのだ!」


「ガルルッ!!」


 シャドーウルフは、奴の影に入っていく。


「では、私は正面から行き油断を誘いましょう」


「セシル君、頼んだよ。君みたいな優秀な人材は貴重だ。無理はせずに、生き残ることを優先してくれたまえ」


「はっ!ありがたきお言葉!では、行ってまいります!」


 セシルはそう言い部屋を後にした。


 ……ククク、馬鹿正直なやつよ。


 これで、準備は整った。


 あとは……タイミングを図るだけだ……。

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