動き出す物語
都市へと帰還する
一夜明けて、俺達は都市ランスロットへと帰ることにする。
どうやら、俺の祖父のアーサー殿は相当な人気者らしい。
それこそ、絵本や読み聞かせに使うほどに。
なので朝方早く、静かに王都を出発することにした。
見送りにはヘーゼル女王自らと、王女のルナさんが来てくれた。
もちろん、後ろにはワーレン殿が控えている。
ただ、俺と少し話す時間が欲しいとのこと。
なので今、ハクとシンクは草原を駆け回っている。
「では、クロウさん。また、いつでも来てくださいね。それこそ、自分の家だと思って」
「クロウ兄さん、また会いましょうね」
「はい?ルナさん?」
「ルナで良いですよ、貴方の方が三つ歳上ですから。それにアーサー様の孫なら、血の繋がりがあるので変ではありませんし。というわけで、敬語は禁止です」
「クロウ!良かったわね!可愛い妹が出来たわよ?妹なら安心ね!」
「何が安心なんだ?」
「ふえっ……?な、なんでもないわ!」
「ふふ、きっと叔父上も喜んでいるでしょう」
「あぁ〜あ。エリックも、クロウ兄さんくらい情熱的なら良いんだけどねー」
「……きっと照れ臭いのだと思うぞ。俺もカグヤを愛しているとはいえ、言葉にするのは照れ臭いものだ……」
「ニャア!?」
「どうしたらいいんでしょう?」
「まずは正直に伝えればいいんじゃないか?婚約者なのだろう?見たところ、両思いに見えるし。奴とて不安だから、俺にあのような態度で来るのだろうしな。俺とて、カグヤに愛を伝える時はいつだって不安だからな……」
「あ、あぅぅ……」
「ふふ……なんだか、本当にお兄さんみたいで嬉しいわ。私には妹しかいないし」
「そうか、男が生まれにくいんだったな……うん?妹?」
「今は地方にいるけど、あの子にも会わせたいわね」
「はぅ……」
「二人とも、その辺にしときなさい。カグヤさんが湯気が出てるわ」
「ん?……何故頬を染めて、両手で顔を押さえているんだ?」
「ニャア!?ニャンでもにゃいわ!」
「また猫がいっぱい……」
「グルルー?(行かないのー?)」
「ピー!」
「あらら、そうね。引き止めてしまったわ。じゃあ、兄さん。またね」
「ああ……ルナもな」
「……は、破壊力抜群ね……」
「むぅ〜……妹だから我慢我慢……」
「ふふふ……仲良く出来そうだわね。では、気をつけて。一応言っておきますが、私にとっても息子のようなものですからね。もちろん、貴方にとっての母親が一人なのはわかっているわ」
「は、はい……あ、ありがとうございます」
「クロウが照れてる……ふふ、新鮮ね」
「仕方ないだろう……俺はこういうのに慣れてないんだよ。では、キリがなさそうなので失礼します」
「兄さん!お気をつけてー!」
「また、いらしてください」
「ヘーゼルさん!ルナさん!クロウを優しく迎えてくれてありがとうございましたー!クロウは照れ臭くて自分で来れないと思うので、私が連れてきますね〜!!」
「おい、そんなこと……あるな」
「グルルー!(オイラも連れてくのだー!)」
「ピー!」
……そうか。
俺にもまだ、身内というものがいたのだな……。
そして、大事に思ってくれる人が……。
俺は都市へ向かいながら、そんなことを思っていた……。
ハクが頑張ったことにより、ほんの数時間で無事帰還することができた。
「ハク、よく頑張った。それに、よく俺の言いつけを守ってくれてたな。後で、ご褒美をあげなくてはいけないな」
「グルッ!?(なんだろ!?)」
「とりあえず、オーク肉を好きなだけ食べていいってのはどうだ?」
「グルルー!(嬉しいのだ!)」
「よーし!今日は、ご馳走を用意するわよ!だって嬉しいことがいっぱいあったもの!」
「ピー!」
「……ありがとな」
そして……都市の中に入ると……。
そこには領主であるサラさんと、守備隊長のゼト殿が待っていた。
「クロウ!私は先に帰ってるわ!シンク〜、行くわよ〜?ハク、お願いね?」
「グルルー!(任せるのだ!ご主人様!安心するのだ!)」
「ピー!」
「おい!?」
カグヤ達は足早に去っていった……。
「どうやら、気を遣わせてしまったようだな。通達は聞いた……まさか、叔父上の孫だったとは……道理で似ているわけだ。つまりは、私とも血の繋がりがあるということか。存在は知らなかったが従姉妹殿がいて、その息子が其方ということだからな」
「ええ、そのようですね。ただ、いまいちピンときてないというか……申し訳ない」
「いや——無理もあるまい。私とて、いきなりのことで動揺しているくらいだ。まさか、この歳で弟が出来るとはな」
「はい?弟?」
「間違いではあるまい?従姉妹殿の息子にして、ランスロット家の正統な血を引いているのだ。其方は、今日からランスロットを名乗るといい。誰も文句は言わん。もちろん、強制はしない」
「……少し、お時間を頂いても良いですか?」
「無論だ。整理する時間が必要だろう。ただ、私の個人的意見としては嬉しく思う。我らは叔父上に対して負い目があるからな……結果的に追い出す形になってしまった。だから其方という人物がいたことが、我らにとっても救いとなった。感謝する……よく、生きていてくれた……」
「まさか、あの方の孫だとはなぁ。いや、驚きだ」
「ゼト殿はどんな関係で?」
「師匠だよ。ワーレンと俺は兄弟だからな。俺が兄、あいつが弟。俺がここの守備隊長、あいつが王都の守りの要の騎士団長ってわけだ。代々俺の家に受け継がれる役目だな」
「たしかに似てますね。なるほど……」
「道理で似てると思うわけだ。アスカロンを直接見てれば話は早かったがな。俺の前ではアスカロンを出さなかったからな」
「アイテムボックスに入れましたからね。あれを持ち歩くのは、流石に危険ですし。アロンダイトの方は加減ができますけど」
……アスカロンでは、殺す以外のことはできないからな。
「だから、気づくのが遅かったわけだ。まあ、今度模擬戦でもしてくれ」
「それならば、こちらからお願いしたいところです。もっと強くならねばならないので」
「さて!二人とも!ここらで解散としよう。積もる話もあるだろうが、後日にするとしよう。疲れているところ、引き止めて悪かった。どうしても、まずは会ってみたかったのだ」
「いえ、こちらも会えて良かったです。後日、伺わせてもらいます」
「うむ!……姉上と読んでいいからな?」
「はい?」
「ほら!いい歳して何言ってるんですか?帰りますよ」
「聞き捨てならんぞ!?私だって……弟欲しかったんだ!」
ゼト殿に引っ張られて、サラさんも都市の中に消えていった。
「クク……愉快な方だな。それにしても……暖かい?これは……懐かしい感覚?」
……母上から感じていたものと同じ感覚がする。
カグヤとはまた別の感情……。
もしかしたら、家族愛というやつなのかもしれないな……。
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