クロウ、己の出自を知る

 さて……誰も喋らずに、そのままの状態が続く……。


 そして、女性が落ち着くのを皆が待っていると……。


「ご、ごめんなさい。つい……」


「いえ、お気になさらないでください。ただ……説明が欲しいところではあります」


「当然の疑問ね……まずは私の名前を伝えます。我が名は、マルグリッド国女王ヘーゼル-マルグリッド……結論から言いましょう。貴方は我が国唯一の公爵家でもあり、王家でもあるランスロット家の血筋であると思われます」


「……は?……いや、失礼しました……」


 ……さっぱりわからん。

 あまりに現実離れをしている……。

 カグヤが、無言で俺の手をぎゅっと握る。

 ……そうだ、何があろうと俺は俺だ……!

 冷静になって話を聞くとしよう。


「無理もないこと。ですが、会って確信いたしました。貴方は、私が知るあの方にそっくりですから……」


「いえ、もう大丈夫です。して、その方というのは?」


「その何者にも屈しない眼……出で立ち、強い覇気。何より、ハクドラを従えるそのお姿……間違いありません。貴方は、我が叔父にあたるアーサー・ランスロットの血筋に間違いありません」


「女王様の叔父……?ということは……」


「ええ、私にとっても血の繋がった方ということです。ちなみにですが、ランスロットの領主であるサラは、叔父上の妹の娘なんですよ?だから、貴方の姿に違和感を感じて私に報告したのでしょう」


「ヘーゼル様、発言をしてもよろしいでしょうか?」


「はい、お嬢さん。どうぞ。硬くならなくて良いわ」


「ご配慮に感謝いたします。お初目にかかります。私、カグヤと申します。ということは、サラさんはクロウのお母さんと従姉妹ということに……?」


「……そう、娘だったの……ええ、そういうことになるわね」


「母さんが、この国の王族……?とてもそんな扱いは受けていなかった……母さんの最後は……どうしてだ……?」


「クロウ……私も、それが気になりました。カエラさんは……クロウのお母さんは……何故そうなったのでしょうか……?」


「私にもわからないことはたくさんあります。まずは、順を追って話しましょう。とりあえず、席についてちょうだい。エリック、もう警戒しなくて良いわ。この人は間違いなく王族の血を引いているわ」


「……ハッ!畏まりました!」


 ……全然納得いっているようには見えないのだが……?

 なんだ?どうして、ここまで嫌われている?

 俺の態度が良くないだけでは説明がつかないぞ?


 そして、ルナさんとヘーゼルさんの対面に座る。


「さて……まずは、我が国の掟から説明します。我が国を治めるのは女王と定められています。まず我が国の役目が、魔の森に攻め込むことではないことが一因です。あくまでも守りに鉄する、それが代々伝わる方針です。さらに男性が生まれにくい家系で、生まれても身体が弱かったりします。あと理由は定かではありませんが、来たるべきに備えてだと伝わっております。とりあえず、そういう国だと思ってください」


「 来るべき……ええ、わかりました」


「そしてアーサー叔父様は、そんな国に生まれた異端児でした。男性が生まれるのも珍しいのに、強い身体と精神の持ち主であり。そして絶大な魔力による身体強化、類稀なる剣の才能。皆を戦場で鼓舞するカリスマ性、一本筋の通った男の方でした」


「……まるでクロウみたいな人ね……」


「俺はそんな大層なもんじゃないけどな……」


「フフフ、そういう台詞もそっくりだわ。力があるのに決して横暴な振る舞いはせず、自分の力を律していた方でしたね」


「……むず痒いですね」


「あら、ごめんなさいね。そうよね、貴方からしたら何がなんだかって感じですものね」


「まあ……」


「そして……そんな方だからこそ、悲劇が起こったのです……」


「悲劇……?」


「当時、魔の森は荒れていました。強力な魔物が入り口付近に出るようになり……今と似ているわね。いや、今は良いわ……その魔物達を、叔父上が討伐を繰り返しました。次第に叔父上の名声は、どんどん高まっていきます。なので、一部の方々から声が上がってきたのです。頼りない私よりも、叔父上を王とした方が良いのではと……身体が強いし、指揮官能力やカリスマもある。もしかしたら、帝国からの完全な独立も可能なんじゃないかと……」


「なるほど……王位争いに発展したと?」


「ええ、そういうことです。しかし帝国からの独立よりも、魔の森を見張ることが我が国の使命。そのことは、叔父上もわかっていました。しかし、民にはそこまでの理解は出来ない……結果叔父上は結婚もせず、子供も作ることなく、魔の森が落ち着くのを待って、人知れず国を出て行きました。だったはずなのですが……」


「俺がいると……?しかし、何を持って確信したのですか?似ているだけではわからないと思うのですが……」


「私達はわかりますが、本人にはわからないでしょうね……まずは、叔父上と同じようにハクドラを従えています。そしてそれを従える強さや、立ち振る舞い全てが似通っています。極め付けは……貴方が使っていたという剣です。ちょうど良いわね……場所を変えましょう。付いてきてくれるかしら?」


「え、ええ……」


「……なんだが、頭がパンクしそうね……」


 俺たちは戸惑いながらも、ハク達と合流してヘーゼルさんの後を追うのだった……。


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