その43 カラスの謎掛け


「ラウラが見たいのなら別に女装くらいならいいが……」

「にゃんですと!?」


 私に対してお優しすぎるお兄様が何故かお女装にやる気をお見せし始めている!?

 しかし、それはちょっとさすがに私に優しすぎますよお兄様!? 


「あっ、いや、超見たいですけども、めちゃ見たいですけども、鬼見たいですけども! でも、私の欲望は無視してもらっても大丈夫なので! 妄想で常に補えます!」


 株式会社イクラナンデモの代表取り締まられ役な私としては、個人的過ぎる私の欲望にお兄様付き合わせるのは、いくらなんでも申し訳ない!

 見たいのは山々だけど、大山だけど、エベレストだけど! ここは遠慮するのが良いオタクというものなはず!


「文化祭の余興にならちょうど良いと思うがな。ヘンリーなんて、率先してやりそうなものだ」

「ヘンリーの女装ですか!?」

  

 遠慮という気持ちが急速に薄れ、私の脳内はヘンリーの女装姿に支配される。

 特例有限会社ミタスギルの取締役でもある私にその言葉はあまりにも良く効いた。


 金髪碧眼のヘンリーが、その金髪を長く伸ばし、ふわふわなドレスを着たところ……見たい!

 ミタスギル!


「それは絶対に絶対に絶の対に似合います! 似合いすぎてヘンリーの女性形ヘンリエッタになってしまいますよ! ヘンリエッタ・ハークネス! 名前まで美人じゃないですか! いや、あの、なんでそんなに興奮しているのかというと、何故ならヘンリーはそもそも――」


 脳をヘンリーの女装に支配された私は、恥ずかしいことにその後も熱弁を振るい続けた。

 目に火が入ったかのような、そんなあまりにも暑苦しい私の姿にお兄様もバテてしまったのか、気付けばコタツから出て来ていて、立ち上がり、私の横に立っている。


 そして、私の止まらないお口をお兄様もジェーンも無言で、しかしどこか笑顔で聴きつつ、私たちは神殿から外へと自然と歩き出した。

 ただ私の騒がしい声だけが神殿にこだまする。


 ……いや、どういう状況!?

 二人が私の暴走トークに慣れ過ぎて、もう扱いが好きなものを語る子供と親みたいになってるんだけど!


 例としては

『パパあのね今日のライダーなんだけどライオンに乗って現れてね!』 

『うんうん』

『それでね! 土足で部屋に入ってきてね!』

『うんうん』

 とか、そんな感じの!


 私にそういう両親は……いなかったんだけどさ!

 でも、そんな絵に描いたような微笑ましさがこの場にはあった。


 それにしても、おんぶに引き続き、ラウラ・メーリアン、あまりにも子供過ぎる問題が勃発している。

 このままでは完全な幼児となる日も近いのでは……?

 はやく体力と度胸と大人っぽい色気を身につけないと……。

 前途多難な私であった。





「ヨイコトヲオシエテヤロウカノウ」


 神殿の外に出ると、気持ちの良い空気がまた私の肺を満たす。

 そんな透き通った森に、赤目のカラスが姿を表す。

 

 過去を語るカラスさんことフギンが、神殿から飛び出して、私たちと一緒に付いてきてしまったのだ。

 思いのほか人懐っこいのか、私の頭上をクルクルと回転し、滑空しながら何かを話している。


「何を教えてくれるんですかフギンさん!」

「アリカジャ」

「アリカジャ!? じゅ、呪文!?」

「ケンノアリカジャ!」

「剣のアリカジャ……剣のありかじゃですかフギンさん!」


 女神転生あたりの呪文かと思いきや、フギンさんは剣のありかを教えてくれるらしい。

 なんと善人、いや善鴉さんだろう。


「いや、あの、ラウラ様、なんで会話が成り立ってるんですか……?」

「えっ、あっ、確かに! えっと、ぐ、偶然?」

「まあ、偶然の可能性も高いが、カラスというのはそもそも賢い。こちらの発言に反応して、話す言葉が変わるのかもしれない」

「反応して変わるとは……?」


 お兄様はフギンさんの言葉選びに一定の法則性を見出したようだけど、私にはてんで分からない。

 ランダムで何かウィ話しているわけではないの?


「例えば『りんご』と言うと、フギンは『リンゴトイエバチエノミナンジャガ』と似た発音の言葉や、その発言の前後に聞いた言葉を話すんじゃないかと思ってな」

「なるほど! では今はアリカジャと聞き返したからケンノアリカジャまで話してくれたと言うことですね!」


 お兄様の説明を聞いて、私は前世のことを思い出す。

 意味ではなく、単純に言葉に反応して言葉を返すというフギンさんの生態は、少し人工無脳に近い気がしたからだ。

 英語で言えばチャットボットで、要するに人の言葉を学習して反応し、会話っぽく見せるプログラムのことだ。


 言葉の意味を理解して話しているわけではないけれど、ちょっと会話っぽく見えるのが特徴で、前世の私は友達のいないあまり、人との会話をこのプログラムに求めたこともあった。

 ……我ながらなんという悲しい記憶!

 でも、結構楽しいんです!


「ええっと、では『イズミ』とか」

「イズミニハオンナガスンデオル」

「おお! キーワードを言っていくと情報をくれます!」

「面白いな」


 ジェーンは上手にフギンさんから言葉を引き出し、新たな情報を得ることに成功した。

 これは確かに面白い!

 まるでそういうゲームみたいだ。


 特定の言葉を入れると、もしくは話すと反応してくれるゲームってたまーにあるよね。

 ピカチュウげんきでちゅうとか!

 やったことはないけども!  


 しかし、フギンさんの言っている意味はかなり謎めいていた。

 泉に女が住んでおるとは一体……?


「というか、これ、ナタ学院長の言葉からの学習ですから、ナタ学院長に聞けば早いのでは?」

「それは確かに……でも、まだナナっさんの言葉を学習したとは言い切れないし、もしかするとナナっさんが忘れてるかもしれないよ!」

「あと、本人に聞くより楽な可能性もある。あの人は話が長いからな」

「それはそうですね」


 ナチュラルにナナっさんよりカラスなフギンさんの方をリスペクトするお兄様とジェーンだった。

 た、確かにちょっと長いかもだけど、今や話が長いチャンピオンは私だと思うよ!?


「剣のありかはそれなりに気になるな。魔剣の類なら『真実の魔法』軽減に使える」

「泉の方はちょっと難航しそうですし、まだ聞き出せそうな剣の方にしますか。フギン、『ケンノアリカ』」

「シッテイレバデアエル。オモイナガラミテイナイノニミテシマウモノヲミヨ」


 進展が見えない泉の方は後回しにして、最初にフギンさんの話していた剣について聞くと、帰ってきた言葉は奇妙なものだった。


「知っていれば出会える。思いながら、見ていないのに見てしまうものを見よ……?」


 フギンさんの語る言葉は抽象的であり、具体性に欠けていて、とてもじゃないけれど、剣のある場所とは思えないものだった。

 さっぱり意味が分からないけれど、謎かけ問答の気配は感じる。

 私はそういうIQを必要とするやつ結構好き!

 よっしゃ! 頑張って考えるぞ!

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