第428話 かるちぇらたん
記憶って不思議だよね、ずっと忘れていたのに、なにゆえ唐突に? とカヨさん。
むかし、ある出版記念会で、その日の主賓で、のちに日本農村医学の父と言われることになる病院長が近寄って来られ、カヨさんの耳もとに小声で囁かれたのです。
――きみ、「カルチェラタン」なんていう言葉を軽々につかってはいけないよ。
思想面で投獄経験がある高名な医学者が、温厚な笑顔の下に隠し持つ硬骨な一面については、同院の医師で芥川賞作家のNさんの作品にも生々しく描写されています。
でも、当時のカヨさんは、にわか民主主義教育を受けた生意気な小娘だったので、立食パーティに浮かれていた足をふいに掬われたような衝撃を受けたことを、白布で覆われた数卓のサンドイッチやオードブルとともに、あざやかに思い出したのです。
W先生がご存命だったら、現代日本の体たらくぶり……失政はむろんのこと、それに異議を唱えられない大多数の国民の無気力&無責任をどう嘆かれるでしょうか。
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