第272話 ぞくじん


 

 

 

 作句に出かけた近所のカフェの隣席は白髪の男性ふたり連れでしたが、よくある仲間同士のおしゃべりとはどこか様子がちがい、いやに堅い空気が流れています。


 聞きたくなくても聞こえて来るのは独り客の宿命なので(笑)、意識を歳時記に集中させようと努めましたが……無理。なにしろ話が相当に深刻な感じなんです。


 一方的に話しているのは弁護士か司法書士らしく、よく法律用語が混じります。

 相手の男性はカヨさんらの耳を気にしているようで、ほとんど声を発しません。


「いやいや、その件は黙っておいてください」「せめて、この点については約束を取り付けたいんですよ」「あなたは打ちあわせどおりに発言することが大事です」


 このお歳で深刻な揉め事とはお気の毒な。

 その点、わたしは恵まれているかも……。


 俗人にありがちな他人との幸福比べで(笑)、俗の俗を行くカヨさんです。(^_^;)

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