第49話 かえる
猛暑つづきの昨今は、毎朝、わずかな植栽にもたっぷりの水が欠かせません。
今朝も日が昇る前にと、狭庭に水をやり始めると、さも大わらわというふうに、枝葉を茂らせた低木の隙間からピョンピョンと小さなカエル連が跳び出て来ます。
手足を突っ張っても数センチ止まりの、渋い色をしたちっちゃなカエルたち。
――やあい、水だ、水だ!
みんなで歓声をあげているようで、ホースの手がつい弛みがちなカヨさんです。
カエルといえば。
あるひと夏、事務所の玄関横の花壇に水をやるためのホースリールに棲みついていた、あざやかなグリーンの雨蛙が、カヨさんのどこかにいまも棲んでいます。
リールの上にちょこんと行儀よく座って、出社するカヨさんを待っているカエルくんに「おはよう」と挨拶すると、丸い目をぐるんとまわして応えてくれました。
でも、サルビアの赤が深くなり始めたある朝、カエルくんは姿を消しました。
今朝こそはの虚しい期待は日ごとに薄れていき、季節はあともどりせず……。
美しいエメラルドグリーンだけが、シミのようにカヨさんの中に残ったのです。
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