第24話:芦田幸太は同期の寺垣を呼び出す

「ちょっと幸太!あなた、寺垣君の家知っているの!?」

「あ・・・」

静海さんの手を引いて歩く僕は、その言葉に足を止めた。


うん、寺垣さんの家なんて知るわけない。

勢いでアパートを出ちゃったけど、そこまで考えていなかった。


静海さんと話をするために飲んだお酒が、ここに来て足を引っ張るとは思わなかったな。


「まったく。酒のせいで、勢いだけはいいんだから」

静海さんは、頭を抱える僕を見て笑っていた。


「そう!それですよ!静海さんは絶対、そっちのほうがいいです!さっきまでの静海さんは、怖かったです!!」

いつもの静海にさんに戻ったのが嬉しかった僕は、静海さんの手を取りながら言った。


「こんなおばさんの手を握って、何をするつもりかしら?」

「母よりも年上の女性に、なにもしませんから!」


「あら、幸太。だいぶ言うようになったじゃない」

「まぁ、お酒のおかげで」


「それで、これからどうするのかしら?もちろん、寺垣君の方よ?一応、彼に謝ることについては、覚悟しちゃったんだけど」

「わかってますよ。僕、寺垣さんの連絡先知っているので、電話してみます!まだ起きているかもしれないので」


静海さんにそう答えた僕は、スマホを取り出した。


連絡先を交換したときには、まさか寺垣さんに連絡することになるとは思っていなかったけど、まさかこんな形で連絡することになるとはね。


しかも、まぁまぁ遅い時間に。


幸か不幸か、『寺垣さんを慰める会』は早々にお開きになったし、静海さん達もそれほど帰りが遅くなかったから今は午後11時を少し過ぎたくらいだ。


もう寝ている可能性も十分に考えられるけど、なんとなく今を逃したくないという想いで、僕はスマホをタップした。


『・・・・・もしもし』

不機嫌そうな寺垣さんの声が、スマホの向こうから聞こえてきた。


こんな時間に連絡してきたことに対してから、はたまた僕からの連絡だからか。


多分両方だと思う。


今日の飲み会で、寺垣さんは僕と美作みまさかさんの会話を聞いていたはずだ。

寺垣さんが静海さんから厳しくされているという話を。


そんなことがあってすぐに、僕からの連絡なんてあったら、気まずいよね。

僕も気まずいよ。

お酒入っていなかったら絶対にこんなこと出来ない。


寺垣さんも、よく電話に出てくれたよね。


「こんな時間にごめんなさい。今、少しいいですか?」

『あぁ。なんだよ?』


あ、いいんだ。寺垣さん、もしかして意外と良い人?


「あの・・・これから少し、外で会えませんか?」

『は?今からかよ?お前と?まさか、きららちゃんも一緒か?』


「あ、いえ。美作さんとはあの後すぐに解散して・・・今、静海さんと一緒です」

『・・・余計なことしてんじゃねぇよっ!!』

寺垣さんの怒鳴り声が、耳に響いた。


うん。寺垣さんが怒るのも無理ないよね。


「す、すみません。でも、お願いします!出てきて、静海さんと話をしてください!」

『・・・・・・・・折り返す』


少しの間沈黙した寺垣さんは、そう言って電話を切った。


「それで、彼はなんて?」

「静海さんと居るって言ったら、怒っちゃいました」


「それは・・・そうでしょうね」

「だけど、出てきてほしいって伝えたら、折り返すって。

多分、来るかどうか、考えてくれているんだと思います。

寺垣さんも、静海さんとちゃんと話したいのかも」


「そう、だったらいいんだけど・・・」


静海さんが小さく笑っているのを、僕はなんとも言えない気持ちで見ていた。


きっと静海さんも、もうこんなこと繰り返したくないんじゃないだろうか。

僕は、なんとなくそんなことを考えていた。


「はぁ。もしも彼が来るならば、少しお酒を入れておこうかしら」

「静海さん、お酒に頼るのは良くないと思います」


「それを幸太が言うかしら。ほら、そこのコンビニで何か買うわよ。幸太も、そろそろアルコールが切れるでしょ?」

静海さんは何か吹っ切れたようにそう言うと、僕の手を引いてコンビニへと向かって行った。


その時の静海さんの顔を見て、


(きっと、大丈夫だ)


僕は、心の中で呟いていた。

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