第366話 12月23日(……決めた。私のほしいもの)
明日は終業式だ。
冬休みの訪れとクリスマスが重なったせいか、クラスメイトはみんな浮足立っていた。
でも、例外はどこにでもいる。
防寒の仕上げに首へマフラーを巻く途中、つい溜息がこぼれた。
湿っぽく背中が丸まる様子は、越冬の準備を怠ったキリギリスと重なるかもしれない。
「……リクエスト、まだ決まってないの?」
茉莉の声に頷いた直後――、
「もういっそ、物じゃなくてもよくない?」
「……え?」
――夕陽が放った一言は、凝り固まっていた思考に一筋のヒビを入れた。
「それって、どういうこと?」
どこか呆けながら訊ねた所、夕陽は冗談ぽく言葉を紡いでいく。
「えっと……例えば、『クリスマスの夜に、あなたの時間をください』みたいな?」
「ちょっと、まさかちなに、『一緒に居られるだけで嬉しい』なんて言わせる気?」
「ダメなの?」と首を傾げた夕陽へ、茉莉は「真面目に考えなさい」と返す。
それは友人同士で行うおふざけの筈だった。
でも、私は――、
「……ちな?」
――大真面目に考えた結果、クリスマスへ向けてエンジンを掛けたのだ。
「ごめん、先に帰るね」
◆
別に、恥ずかしい台詞を言いたい訳じゃない。
でも、私が彼からもらいたかったのは……ずっと物じゃなかったんだ。
クリスマスプレゼントなんていらなかった。
お年玉なんてもっての外だった。
誕生日プレゼントは……流石にいらないなんて言い切れないけど――ただ一言、『おめでとう』と言ってくれるのなら、物なんて欲しがらなかった。
だって、私が欲しかったのは――もっと特別なものだ。
いつも、傍にいて欲しかった。
ずっと、大人として見て欲しかった。
いつか、気持ちに気付いて欲しかった。
それに、私が嬉しかったのは物をもらった時じゃない。
私が剣道をやめてはいないと言ってくれたこと。
私を信じて進路は一人で決めさせてくれたこと。
私と離れるのを寂しいと感じていてくれたこと。
もらって特別嬉しかったのは、いつだって物じゃないものだった。
だけど、『でも』とも思う。
例えば、珈琲を淹れてもらうのは嬉しかったな、とか。
マフラーをプレゼントされたのだって、本当は少しだけ嬉しかったのに、とか。
子どもっぽくて素直になれなかっただけで、何かをもらう時だって、本当は嬉しかった。
でも、それってつまり結局は全部……あなたが傍にいてくれたからこそ成り立つ訳で。
その瞳へ、私を映してくれる瞬間が重なっていくこと……そういう時間が特別、好きなんだ。
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