第349話 12月6日(特別なプレゼントって、何……?)

 朝礼が始まる前の騒がしい教室へ入ってすぐ、茉莉と挨拶を交わす。


「お、新しいの買ったんだ」


 親友は首に巻いたマフラーを見るなり、「似合ってるよ」と笑った。

 けれど――、


「ん。ありがと……」


 ――その笑顔に仏頂面で返してしまう。


「……何かあった?」


 声色の変わった茉莉へ順を追って話そうとした時――、


「……実は、」

「おはよう、二人とも。あれ? 智奈美、そのマフラーいいね。ちょっと早いクリスマスプレゼントだったりする?」


 ――横から現れた夕陽が、いきなり核心を突いてしまった。



「本当にクリスマスのプレゼントだとは思わなくて……」


 申し訳なさそうに視線を伏せる夕陽に、茉莉が「まだ、そうと決まった訳じゃないでしょ」と言う。

 直後、夕陽の口から「あ、そっか」なんて声が漏れた。


「プレゼントするって言われただけだもんね。大丈夫、きっと、当日にももらえるわよ」

「いや、コレ、別の何かが欲しかったって話じゃないから」


 そして――、


「むしろ、私はクリスマスプレゼントなんていらないくらい」


 ――本音を告げた直後、二人の頭上へ疑問符が浮かんだ。

 

「…………普通、クリスマスプレゼントってどういう相手に渡す?」


 訊ねてすぐ夕陽が「恋人じゃない? 好きな人」と答える。

 正解だと思った。

 でも、当てはまらない。


 だから、「……他には?」と、続けた。

 すると、茉莉が「あー……はいはい」なんて呆れたように言葉を紡ぐ。


「子どもって言いたい訳ね」


 頷くと、夕陽からも納得したような反応が返ってきた。


「別に、子ども扱いされるのは平気だったの。最近は、少しずつそれでも良いって思えてた。でも、コレ――プレゼントするって言われた時に、去年のクリスマスを思い出してから……なんか、子どもだからって理由でプレゼントをもらってたら、ずっとこのままなんじゃないかって考えるようになっていって……」


 唇を結んだ途端、三人の間に沈黙が訪れる。

 でも、それは長く続かなかった。


「だったら、クリスマスプレゼントがいらないなんてのは嘘ね」

「え?」


 夕陽の言葉で、閉じていた唇が開く。


「智奈美、間違えちゃだめ。あんたはプレゼントがいらないんじゃないの。本当は欲しいのよ、特別な理由で贈ってもらう、とびきりのプレゼントがっ!」


 彼女の決めつけを即座に否定できなかったのは――それが本音だったからか。

 私は、何か反論しようにも、


「なっ、えっ……」


 恥ずかしくて、上手く話すことが出来なくなっていた。

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