第341話 11月28日(え? 嘘、なんで……?)

 日曜の食事会だが、流石に三度目ともなれば慣れてくる。

 だから――、


「先に行ってますね」


 ――準備もそこそこに、を探すため一人で自宅へ向かった。



「……ふぅ」


 細い溜息を吐きながら、自室のベッドへ腰かける。

 物置にないのならと、タンスや押し入れを隅々まで探したが……星飾りは見つからなかった。


(やっぱり……気のせいなのかな)


 学校で茉莉から聞かされた『雛飾りを隠したことがある』という昔の悪戯話。

 なんとなく、幼い自分が似たようなことをしたかもしれない……そう考えていたのだけれど。


「……ちっとも見つからない」


 こてんと寝転がりつつ、静かに溜息を重ねる。

 一瞬、『隠したのではなく、捨てたんじゃないか?』なんて言葉が脳裏を過った。


「……いや、まさかそんな」


 いくら勝手知ったる彼の家だからといって――他人様の物を断りもなく捨てたりはしない筈だ……たぶん。


「……はぁ」


 三度目の溜息が止めようもなくこぼれていく。

 もはや『幼い自分が星飾りをどうにかした』という記憶を捏造しているような気分になってきた。


 だいたい、本当に隠すなり捨てるなりしていたとしても……小学六年生の時だろう。

 幼稚園へ通っていた頃ならまだしも五、六年前にやったことを忘れるなんてありえない。


 一周して、『やはり彼が捨てたのでは?』と思い始めた頃――ドアがノックされた。


「入るわよ」


 母の声に返事をする間もなくドアが開く。


「……何?」

「夕飯の支度、そろそろ始めた方が良いんじゃないかと思って」


 「もう少し後で……」と返した途端、心配そうな声が聞こえてきた。


「そんなに疲れるまで、一体何を探してるの? お母さんも手伝ってあげよっか?」

「…………」


 私はむくりと体を起こすなり、藁にも縋る思いで「実は……」と話し始めたのだ。



 心のどこかで『母に話した所で解決する訳がない』と思っていた。

 しかし。


「……本当にあった」

「やっぱり、それだったでしょ?」


 母が持って来た猫のぬいぐるみ。

 その子が抱き締めている星飾りを見て思わず唖然となる。


「中学あがる前に『ぬいぐるみは卒業する』って、お母さんに全部預けたの覚えてない?」


 それは覚えていた。

 でも、なんで預けたぬいぐるみが星飾りを抱いているのかはわからない。


「ねぇ、この子、なんでコレ星飾り持ってるのか知らない?」

「ちなにわからないなら母さんが知る訳ないじゃない」

「……そう、だね」


 今日は……案外、記憶なんてあてにならないのだと痛感した。

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