第199話 7月9日◆絶好球!◆
白球が投手の指から離れた数秒後――金属音が生まれた。
二遊間を裂くように低い打球が飛ぶ。
「抜けたぁっ!」
ベンチから歓喜の声があがる頃、小塚はバットを手放し一塁へ向かって走り出していた。
「走れぇっ!」
後からチームメイトが発した声は小塚に向けたものではない。
既に
スパイクに蹴られる砂の音が響く。
しかし――、
「セカンドォッ!」
――怒声じみた守備への指示は、小さな足音をかき消した。
直後、捕球を終えた外野手が、二塁に向かって送球する。
だが、走者を待ち構えていた二塁手のグラブへ白球が渡った時……走者は二塁にはいなかった。
七回表――終盤が始まって早々の大きなチャンスにベンチが沸く!
小塚がチームメイトにガッツポーズを見せる中、俺は粛々と打席へ向かった。
(七回表の一点リードでこの場面……とにかく点がほしい)
打席へ入る直前、ベンチに目線を送る。
監督からは
けれど、深いしわが刻まれた監督の顔には『一点じゃ足りない』と書いてある。
結果、出されたサインは――打て、だった!
(積極的ですね、監督。でも、本音は『
もう三年も世話になっている人だ。
多少の考え方はわかる。
だからこそ、にやりと笑いつつ、ヘルメットの鍔を指でつまんだ。
(全く、期待されてるんだかいないんだか。でも、そのくらいの方が気楽に打てます)
チャンスを任せてもらえた高揚感に、気負いも緊張も追いつかない。
そう、心に決めて――、
「――しゃっす!」
――打席へ入った。
「すぅー……」
バットを構え、静止する。
グリップを握る指に力が入る中……一球目は
そして、相手投手の脚が上がる!
投手のスパイクがマウンドを踏むのと同時――連鎖的に腕が振り下ろされた。
次の瞬間――白球がっ、胸元に向かって飛び込んでくる!
一瞬の、直感に近い判断――バットを振りながら『来た!』と思った。
指へ掛かる刹那的な重みに歯を食いしばる。
ミット目掛け、何もかも食い破って進もうとする白球を思い切りバットで押し返したっ。
すると――キィンッという悲鳴のような金属音!
「――っ!」
打球が左翼側ファウルラインのスレスレを滑るように飛んでいき――
「落ちたあぁっ!」
――フェアゾーンへと落ちる頃には、走者が二人帰っていた!
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