第158話 5月29日(……そう。なるほど)/【一抹の不安を、塵積って山となる】
昨日、秋は『わたしと彼も最初から好き合っていた訳じゃないですし、付き合うようになってから彼に惹かれていった感じでしたから。なので、ちーちゃん先輩も今は相手のことを好きじゃなくてもいいんです。付き合ってみて、はじめて見せてもらえる、見せられる一面というものもあると思いますよ』と、照れくさそうに頬をかきながら話してくれた。
彼女の話は『恋人は好き同士でなるもの』と思っていた私にとって衝撃的だった。
相手のことを好きになるために恋人になってみるなんて、私では考えもしないことだ。
しかし、理解はできた。
要するに『形から入る』と言うことだろう。
恰好や外見の見た目から入っていくというのは武道にも通じるものがある。
新人が道具から揃えてみたり、上手い人の真似をしたりしながら自分の目標に向かって積み上げていくというのは悪いことじゃない。
だから、楠との関係もまず形から入ってみるというのは理にかなっている気がした。
けれど、何故だろう?
この考え方は、ものすごく茉莉に怒られそうな気がする。
だから、茉莉に『私、もし楠がOKしてくれたら、楠と付き合ってみようと思う』とメッセージを送った直後――、
「今のっ! どういうつもりっ!」
――親友から予想した通りの声で電話がかかって来た。
◆
「そりゃ、
特に『付き合ってみてはじめて見せてもらえる、見せられる一面がある』というのは、智奈美のような面倒くさい性格にはドンピシャだと思っていたのだ。
しかし、茉莉には拭いきれない不安もある。
(もし、これで二人が付き合うことになったらいよいよ彩弓さんの思惑通りなんだよね)
智奈美が楠へ恋愛感情を持たないまま恋人関係になることは、彩弓の思惑にぴたりとハマってしまう。
ただ、一応これは智奈美自身が考えて導き出した答えであり、
それに今の関係で二人を放置すれば、また『誕生日を祝うの禁止』みたいな変な方向へ転がる予感が茉莉にはあったのだ。
だから、
「やっぱり、変だよね?」
「はぁ……いいんじゃない? ちなにスマートな恋愛なんて期待してないし、これくらいの劇薬ぶち込まないと、あんたは何にも変わんないよ。きっと」
大きな不安が胸裏で渦巻く中、彼女は親友の背中を後押しした。
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