第149話 5月20日【hard knotはむすんでひらいて】
中間試験の四日目、茉莉は智奈美よりも早く学校に登校した。
何故なら――、
「……一応、お礼言っとく。昨日は、ありがと」
――自分が楠にお礼を言っているところなんて見られたくなかったからだ。
照れくさいというより不服そうな表情で『ありがと』と告げた茉莉を見て、楠は安堵したように笑った。
「なに、その顔。ばかにしてるの?」
「いや、そうじゃなくて――正直、一晩経って口も利いてくれなくなったらどうしようかと思ってた。怒らせるっていうか、嫌われても文句言えないな……みたいな」
「……元々嫌ってるんだから、そうそうこれ以上険悪になったりもしないわよ」
「だな」
そうして困ったように笑う楠を見た途端、茉莉は拍子抜けした気分になる。
「もっと、図々しいこと言ってくるかと思ってた。そしたら絶交してやったのに」
「図々しいって?」
「俺のおかげで仲直り出来て良かったな……みたいな」
「そもそも喧嘩してた訳じゃないだろ?」
それはその通りだと茉莉は思う。
今回は茉莉が楠に気を遣い過ぎただけ。
智奈美とは少々ぎくしゃくしたが喧嘩をしていた訳ではない。
(……案外、あたしのことも見られてたんだな)
なんて思い浮かべた瞬間、茉莉ははっとなった。
(違うわ。この男はあたしを見てた訳じゃなくて、ちなのことを見てたんだ)
好きな人の友達にまで気を遣って、ご苦労なことだと茉莉は呆れる。
(けど、そんな奴だから、あたしも友達枠に入れちゃうのかなぁ……)
しかし、一応友達枠である男子の恋を応援するには、やはりどうしても自分が邪魔だった。
(でも、これ以上気を遣ってまた怒られるなんて二度とごめんだ)
それから、茉莉は胸の内で『よし』と呟き……楠に「本当にいいの?」と聴かせた。
「ん?」
「あたし、今日もちなと勉強するよ?」
不思議そうな瞳が茉莉に向いた直後、
「あ! 心配してくれてんのか」
余計な一言で、パチンっと彼女のスイッチは切れた。
「……してない」
茉莉から視線を逸らされてしまい、楠がしまったと黙る。
『気付いても口にしない方が良いこともある』
そう楠が学習する一方で、茉莉は席へ戻ろうとしていた。
(……やっぱむかつく)
茉莉から楠に抱いた感謝の気持ちが薄れていく。
しかし、彼女は根っからの世話焼きなのだ。
茉莉は楠へ振り返るなり、
「……言っとくけどさ」
胸の奥が痒くなるのを感じながら口を開いた。
「勉強、あんたから一緒にしたいって言わないと、あたしから誘ったりしないからね」
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