第120話 4月21日(……わかりませんよ。本当に、もう――)

 自販機で缶珈琲を買おうとした時だった。


「……なんか今日、甘いの飲みたい」

「あれ? 珍しいね」

「茉莉の買ったそれ、何? 甘いやつ?」

「これ? ミルクティー。結構甘いよ?」


 背の低いペットボトルなら、缶珈琲と値段もそう変わらない。

 私は茉莉と同じのを買おうとし――誤って、紙パックのオレンジジュースを買ってしまった。


「全然、甘くないやつじゃん」

「……間違えた」


 直後、呆れる茉莉の目線に晒されながらストローを刺す。

 一口啜ったジュースの味は酸っぱくて、飲みたかった味とは程遠かった。



 別れ際「今日も家まで一緒に帰ろうか?」なんて言う茉莉に「過保護すぎ」と答えた。

 でも、本当に『過保護すぎ』と言いたいなら、もっと元気な姿を見せないといけない。


「……はぁ」


 一人で家路を歩き、彩弓さんの家へ続く通りに差し掛かった所で溜息が出る。


「……やっぱり、私のせいじゃないですか」


 ふと、大好きだと言ってくれた笑顔を思い出し……胸が苦しくなった。


「……っ」


 いつの間に止まっていたんだろう?

 私は胸の痛みを押さえつけ、早足で歩き出す。


 ちょっと前まで、とても簡単に二人と話せていたのに……。

 今はどんな顔をして会えばいいのかすらわからなかった。




 なのに。




「急いで仕事片付けてケーキまで買って来たのに『まだ学校から帰ってないの』ってひどくない? 寄り道はほどほどにしなよ、ちーちゃん不良なの?」


 帰った途端、母から友達が来てると言われ、自室に入ると何故か彩弓さんがいた。


「なんか……すごい疲れた」

「ん、お疲れ。あ、今ケーキとお茶取ってきてあげるよ」


 そう言って、彼女が部屋を出ようとした瞬間、


「――待って」


 彩弓さんの腕を掴んで引き留める。


「本当に……どういう神経してるんですか」

「……ちーちゃん?」

「なんで、昨日の今日で私なんかに会いに来れるんですか」


(二人が別れたのは、私のせいなのに……)


 そう思ったが最後、胸の奥からどっと後悔が溢れ出す。

 しかし、


「いや、会いに来るでしょ? 何のために私が彼と別れたと思ってるの」


 彼女はしれっと言うなり、綺麗に包装された箱を私へと差し出した。


「何ですか、これ?」

「写真立て。この前三人で撮った写真、これに飾ってもらおうと思って」


 一瞬、ひどい目眩に襲われる。


「本当に、何考えてるんですか」


 言動が理解できず、勢いで彼女を睨むと、


「わからない?」


 彩弓さんは真っ直ぐ私を見つめて答えた。


「今でも、私にとって二人が大切ってことだよ」

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