第120話 4月21日(……わかりませんよ。本当に、もう――)
自販機で缶珈琲を買おうとした時だった。
「……なんか今日、甘いの飲みたい」
「あれ? 珍しいね」
「茉莉の買ったそれ、何? 甘いやつ?」
「これ? ミルクティー。結構甘いよ?」
背の低いペットボトルなら、缶珈琲と値段もそう変わらない。
私は茉莉と同じのを買おうとし――誤って、紙パックのオレンジジュースを買ってしまった。
「全然、甘くないやつじゃん」
「……間違えた」
直後、呆れる茉莉の目線に晒されながらストローを刺す。
一口啜ったジュースの味は酸っぱくて、飲みたかった味とは程遠かった。
◆
別れ際「今日も家まで一緒に帰ろうか?」なんて言う茉莉に「過保護すぎ」と答えた。
でも、本当に『過保護すぎ』と言いたいなら、もっと元気な姿を見せないといけない。
「……はぁ」
一人で家路を歩き、彩弓さんの家へ続く通りに差し掛かった所で溜息が出る。
「……やっぱり、私のせいじゃないですか」
ふと、大好きだと言ってくれた笑顔を思い出し……胸が苦しくなった。
「……っ」
いつの間に止まっていたんだろう?
私は胸の痛みを押さえつけ、早足で歩き出す。
ちょっと前まで、とても簡単に二人と話せていたのに……。
今はどんな顔をして会えばいいのかすらわからなかった。
なのに。
「急いで仕事片付けてケーキまで買って来たのに『まだ学校から帰ってないの』ってひどくない? 寄り道はほどほどにしなよ、ちーちゃん不良なの?」
帰った途端、母から友達が来てると言われ、自室に入ると何故か彩弓さんがいた。
「なんか……すごい疲れた」
「ん、お疲れ。あ、今ケーキとお茶取ってきてあげるよ」
そう言って、彼女が部屋を出ようとした瞬間、
「――待って」
彩弓さんの腕を掴んで引き留める。
「本当に……どういう神経してるんですか」
「……ちーちゃん?」
「なんで、昨日の今日で私なんかに会いに来れるんですか」
(二人が別れたのは、私のせいなのに……)
そう思ったが最後、胸の奥からどっと後悔が溢れ出す。
しかし、
「いや、会いに来るでしょ? 何のために私が彼と別れたと思ってるの」
彼女はしれっと言うなり、綺麗に包装された箱を私へと差し出した。
「何ですか、これ?」
「写真立て。この前三人で撮った写真、これに飾ってもらおうと思って」
一瞬、ひどい目眩に襲われる。
「本当に、何考えてるんですか」
言動が理解できず、勢いで彼女を睨むと、
「わからない?」
彩弓さんは真っ直ぐ私を見つめて答えた。
「今でも、私にとって二人が大切ってことだよ」
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