第115話 4月16日(……『姉』離れか)


 パック飲料のストローから口を離し、茉莉は溜息交じりに、


「それで、週末にまたお出掛け?」


 と首を傾げる。

 尖った唇から察するに今、彼女は呆れているのではなく、いじけているらしかった。

 けれど、


「いけない?」


 あえて悪びれもせずに答えると、人差し指で頬を突かれてしまう。


「……なに?」

「なにじゃない。こっちも構えって言ってるの」

「……今、構ってない? 結構」

「学校以外で構ってって話です」


 直後、茉莉の鼻が不機嫌にふんっと鳴った。

 彼女は歯型のついたストローで乱暴に中身を飲んでいく。


「……茉莉?」

「何?」


 再び茉莉の口を離れたストローは、先がテッシュで作ったこよりみたくいた。

 ……普段の茉莉なら、こんなことはしない。

 少なくとも私と出会ってから、彼女がこんな風に直接的な方法で拗ねたのは初めてだった。

 だから、


「最近……何かあった?」


 自然と、そんな言葉が出る。


「……ちなが、構ってくれない」

「それ以外で」

「はあぁ……」


 茉莉は深い溜息を吐いたかと思えば、机に突っ伏するなり細い声で呟いた。


「……5年になった途端、急に陽菜が素っ気なくなった」

「……ああ、なるほどね」


 頷いて見せると、茉莉はむくりと起き上がり、近況報告を始めた。


「まだ、流石に習い事には一人で行かせられないから付き添うんだけど……なんかこう、急に一人の時間が増えてさ。そしたら、思いの外なんにもすることがなくって――ふと、あたしってこんなに無趣味な人間だったっけって、震えた訳よ」


 茉莉はオーバーに指先を震わせて見せる。

 だが、私が「大げさ」と言うなり、すぐ元の調子に戻った。


「でも、一人の時間が増えたのは大げさでも何でもないの。何していいか本気でわかんなくてさ。この間なんか、夕陽達に誘われて久々にカラオケ行っちゃったよ」

「何それ……誘われてない」

「え? だってちな、その日、委員会だったもん。しかも『終わった?』って送ったら『もう家』って返したし」


 茉莉の言葉で、委員会のあった日を思い出す。

 ちょうど、彼の家で本を読んでいた日だ。


「……あの日か」

「そうそう。で、カラオケは楽しかったけど、お金かかるから何回もいけないでしょ? だからもう今、暇で暇で」

「読書は? 私があげた本とか」

「そんなの、もう読んじゃったよ」


 間延びした声を出しながら、茉莉は机に寝そべる。

 彼女は退屈を持て余した眠そうな顔で、


「いっそ、今からなんか部活にでも入るかなー」


 なんて独り言をこぼした。

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